著者はホームレス支援のNPO法人「TENOHASHI」の代表であり、精神科医でもある。精神科医としての視点で、特に精神疾患に着目して、ホームレスの高齢者について語られている。
あれこれ考えさせられることが多く、大いに感銘を受けたし、著者の活動を尊敬もするのだが、良くも悪くも「大都会・東京の話だな」というひねた感想も抱いてしまった。東京は、人口に比べれば福祉が足りないのかもしれないが、ド田舎では福祉が「足りない」のではなく「ない」。一般的にいって「足りない」は「ない」よりマシである。田舎にホームレスがいないのは、福祉や支援が充実しているからではなく、そもそも東京のようには福祉も支援もないからだろう。炊き出しもない、シェルターもない、残飯を漁るような店もない。そんな田舎でホームレス生活はできない。
ド田舎の愚痴はさておき、本書で一番考えさせられたのが、精神疾患のある人を受け容れてくれる総合病院が少ないという話。「精神科医がいないから対応できない」と言われてしまうのだ。そして、その逆に、救命センターなどで治療を受けた精神疾患患者を精神科病棟へ転院させようとすると、精神科は「身体の合併症管理ができない」という理由で渋る。こうして患者さんは宙ぶらりんにされてしまう。
精神疾患は、関わる人の冷静さを少し奪う。精神疾患を敬遠する人からだけでなく、支援する側の人からも冷静さを奪うので、互いにヒートアップしやすい。こういう状況はホームレス問題と違って、都会だけに限った話ではない。ド田舎の総合病院の中でも日常茶飯事で、身体科医と精神科医、身体科病棟と精神科病棟が、それぞれの得意・不得意分野をめぐって、押したり引いたりしている。
冷めた目と一歩引いた態度も大切だよな、なんてことを考えさせられた。