2014年12月2日

慢性疾患では、維持期にこそ医師の力量が問われる

慢性疾患をあつかう医師の力量の差は、穏やかな維持期をどれだけ良好に長く保たせるかにこそあらわれる。たいがいの慢性疾患において、急に悪くなった時の治療というのはある程度パターン化されていて、一定レベル以上の医師であれば誰がやっても治療成績にそう大差はない。

例えば、精神科での慢性疾患の代表である統合失調症の場合、ある程度の経験さえあれば急性期の治療はそう難しくはない。精神科医の腕の見せ所は、急性期から回復し退院した後に、どれだけ長く穏やかな日々を保たせるかにある。通常、新人がいきなり外来を任されることがないのは、「維持期の維持」が一見漫然としているようで、実は高度な診療であることの証左であろう。

テレビやマンガで扱われるのは、どちらかというと救命救急のような急性期を見事に切り抜ける医師たちの姿である。しかし、多くの医療現場ではむしろ、「維持期をいかに長く保つことができるか」が大切になる。医師と患者の信頼関係を基底にして、生活指導、処方の調整、短期入院などの適切な介入を絶え間なく行ない続けるのだ。

ただ、こういう日々のコツコツした積み重ねというのはドラマチックではないので、あまり表に出ることはない。医療というのは、患者や家族には見えない水面下で驚くほど足をバタバタさせているものなのである。

8 件のコメント:

  1. ドラマや映画で取り上げられるのが救命救急や外科手術ばかりなので、どうして慢性疾患が取り上げられないのだろうと思ってましたが、この記事で理由が分かりました。
    ありがとうございます。
    慢性疾患を扱うのは、とても難しくて、先生方も大変なのだということも分かりました。
    私も慢性疾患がありますが、先生方の努力に応える療養生活をしたいと、改めて思いました。

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    1. >ヒグラシさん
      こちらこそありがとうございます。
      いわゆる「絵にならない」というやつで、ともすれば患者さんや家族から、
      「何もしてくれてないのに、なんで精神療法のお金がかかるの?」
      とも思われたり^_^;
      入院しないで済んでいる、悪化しないで保っていられる、ということの大切さ、難しさというのは、ななかな伝わりにくいものですね。

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  2. 初めまして、寒くなりましたね。
    慢性疾患といえるかどうかわかりませんが・・・
    私は、てんかんです。

    今年、自動車免許更新でした。
    医師の診断書を送るように、警察から言われました。
    神経内科に通っています。
    発作は、平成24年5月1日以降ありません。
    以下は、診察室でのやり取りです。
    主治医に警察からの診断書を渡しました。
    主治医「こんなものは書けません!」
    「見たこともありません!」
    私・・・・「?」「じゃ、私はどうしたら良いんですか?」
    主治医「脳波をとって・・・・」
    「紹介状を書きます。S病院のてんかん担当の先生に。」

    以下S病院の診察室で。
    いきなり
    医師「てんかんが運転するのは、殺人です。」
    私・・「?」(私は、人を殺してませんが・・・)
    医師「診断書は、書けません。とりあえず、脳波とMRIをとります。」

    医師と患者の信頼関係がなくなった2日間です。


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    1. >匿名2014年12月2日 21:46さん
      てんかんは慢性疾患ですね。
      それにしても、あなたの体験なされた2日間、にわかには信じられないくらいひどい話です。たいへん傷つかれたことでしょう。同じ医師という立場にある者として、恥ずかしく、また憤りもおぼえます。暴言であり、また誤った知識にもとづく偏見、先入観が丸出しです。信頼関係がなくなって当然です。
      てんかんを扱う神経内科医にしては、ちょっと無知すぎますね……。

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  3. おはようございます。
    さそっくのお返事ありがとうございます。
    帰り道、涙がとまりませんでした。
    S病院は、財閥系の大病院です。
    しかし、私の個人的な意見です。
    総合的に判断して、「S病院は、病院ではありません。金持ちの療養です。」
    不適切な発言であれば、削除して下さいませ。

    「てんかん」は、病名ではありませんね?
    では、何て言ったら良いのでしょうか?
    「てんかんもち」「てんかんを患っています。」
    そして、障がい者ではありませんね?
    福祉手帳は、今年却下されました。
    「障害年金は、これでは受けられないです。」と保険事務所で。
    でも面接時には、「てんかんです。」と告知しないと
    「告知義務違反」になりますか?

    私は、皮質下出血後の症候てんかんです。

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    1. >匿名2014年12月3日 10:53さん
      「てんかん」はちゃんとした病名です。
      ICD-10という国際的な疾病分類ではコード「G40」になります。また障害者手帳も取得できます。ただしこれは発作の頻度など、細かくチェックが入りますので、取得するには診断書を記載する医師の手腕が問われます。「平成24年5月1日が最後」だと手帳は却下されるかもしれません。
      ただ、よく思い出してください。本当に平成24年5月が最後なのかどうか。
      てんかん発作には「発作前兆」というものがあり、モヤモヤした変な感じ、目がちかちか、あるいは変なニオイがする、などあれこれあります。このあたりを発作の拡大解釈として手帳取得の材料にできることもあります(絶対にできるというわけではありませんが)。


      また障害年金も同様で、やはり障害の程度などがどの程度かということが大切になります。
      詳しくは、
      http://www.tenkan.info/support/socialsystem/vol02.html
      をご参照ください。

      就職面接で告知義務違反になるかどうかは難しいところで、発作が業務中に起こった場合に、本人や周囲の人に危険を及ぼす恐れのあるようなら告知が必要だろうと考えます。このあたり、自分は法的には詳しくありません。

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  4. Ciao いちはさん
    日本ってさ、完璧主義と言うか、なんかある意味ちょっと違うものをもってる人たちへの対応がめちゃくちゃ下手。ですよね てか、冷たい
    保護してる風を装ってるけど、その実 差別し孤立させる
    何か障害、、うーん、障害って言葉は嫌いなんだけど、
    つまり実生活に何か不都合がある人たちを実社会からこうして削除、隔離するのじゃなく、一体どの辺りでどのように社会との接点持たせてあげるか?っていうのが精神医療に限らず医療だと思うのです
    日本って、癌をやんでいる方しかり、疾患というものを持っている人たちを悪い意味で特別扱いし、故に孤立させてしまっている気がします
    これって差別の一種だとおもうわけで
    癌にしろてんかんにしろ、便秘がちなひと、腰痛がある人と全く同じじゃあないけど、ほぼ同じ
    疾患なんて多かれ少なかれ、程度に差はあってもみんな持ってるわけですから、
    癌なんておできみたいなもん、うつなんて気持ちの落ち込みはだれにでもあるわけで、
    前から思ってるんだけど、鬱ですって診察に来た人に気持ちの落ち込みは誰にでもありますよと様子を見ましょうとすぐに病名なんてつけないでみたら、鬱"病"と信じてる人もっと減ると思うんですよね
    そういう端からのアプローチでもっとみんなが気軽に疾患と共生できると思うのですけれど

    癌難民になってしまった方がたくさんいるそうです
    てんかんにしても、そういうものをもっている、気を付けなきゃいけないってだけで心が重くなるでしょうに、あなたはここから先には入れませんみたいな差別を受けなきゃいけない
    それって二重に心が痛みます
    こういう社会って、許容量に欠ける、とどのつまり未熟なんですよね
    上の方のコメント読んで無性に腹が立ちました

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    1. >junkoさん
      二重苦というのは確かにありますね。
      もしかしたら、三重苦、四重苦かもしれません。
      俺は時どき、「病名はありません」と言います。患者さんが病名をつけて欲しそうな時でも、
      「病名をつけることで、あなたの今後に利益があるかどうか……」
      と悩んでみせておいて、やっぱり病名はありません、と(笑)

      今の日本は、会社を休職する場合、なぜか「精神科の診断書」を求められるみたいです。病名ではない、ただの会社への不適応なのに、診断書には病名と「休職を要する」と書かなければいけません。すごく変なシステムだと思います。

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