2018年3月7日

グロテスクな一冊 『自閉症裁判 レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』


すごくモヤモヤする一冊で、Amazonでは高評価だが俺は本書に対しては批判的である。

平成13年にレッサーパンダ帽の男が起こした殺人事件のルポである。俺がすごくモヤモヤするのは、著者がこの犯人Yは自閉症であったとほぼ決めつけて話を進めているところ。著者は本文中では何度となく「医師でもない自分が診断を下せるわけもないが」といったことを書いているが、実際の中身としては加害者Yは自閉症であるとして持論が展開されている。

確かに、自閉症や精神遅滞の容疑者・加害者を取り調べる際には、警察や検察の「創作」「作文」が入り込みやすいのだろうし、そのぶん冤罪の危険性も高まるだろう。だから細心の注意を払う必要がある。その点については大賛成だ。

しかし、あくまでも本件に関して言えば、冤罪ということはありえず、また責任能力についても、本書に記載された加害者にまつわるあれこれのエピソードを読んだ限りではあるが、俺が簡易鑑定を担当したなら「完全責任能力あり」と判断するだろう。

裁判では真実を明らかにすることが大切、と言う。本件での真実は、このYが見ず知らずの女子短大生を殺害したということである。ところが弁護士も著者も動機にこだわる。殺人事件の動機なんか重要ではない、とは思わないが、本件と本裁判においては弁護側も著者も些事に捕らわれすぎているように感じられてならない。

思うに「精神障害者の事件・取り調べ・裁判」といったテーマを掘り下げていくのに、本件はふさわしくなかったのではなかろうか。著者の「精神障害者と司法」に関する日頃の考えと、本件の裁判を傍聴し続けた故の思い入れの深さ、この二つが混じり合ってこんなグロテスクな内容の本ができあがったのだろう。

少々皮肉めいた言い方になるが、精神障害者の犯罪に対する偏見と憤りを深めたい人にはうってつけの本かもしれない。しかし、その真逆にある、精神障害者の支援者的な感覚を持つ人にとっても「人の振り見て我が振りなおす」ために読んでおいて損はない一冊。

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