2018年7月17日

「安楽死」について考えるための最初の一冊 『安楽死を遂げるまで』


スペインで、安楽死を認めない家族の反対を押し切り、第三者を介して安楽死を遂げたケースがある。ラモン・サンペドロは25歳のときに頚椎損傷から四肢麻痺になった。ラモンはずっと死ぬことを望み、その希望を社会的に公言してきた。そして55歳のとき、第三者であるラモナという女性の手を借りて安楽死(実際には「安楽」ではなく悶え苦しんだようだが)を遂げた。サンペドロの兄ホセとその妻は、それから20年近くが経った現在も、ラモナのことを恨み、許していない。どんな状態であっても「生かすことが愛」と信じ主張する老夫婦。そんなホセに著者が尋ねる。
あなたがもし、寝たきりで、死にたいのに死ねないのであれば、どうしますか?
一瞬、沈黙が流れる。ホセが数秒後に口を開く。
「俺は安楽死を選ぶ」
その意味が、一瞬、私には分からなかった。安楽死は良いというのか。ラモナは犯罪者扱いしたホセが、安楽死を選ぶというのか。ホセが、また怒声を上げて叫んだ。
「俺はいいんだよ。だけど、ダメなんだ。家族だけはダメなんだよ!」
矛盾を自ら告白している。しかし、私の心にはまっすぐに刺さってきた。頑固な兄として、時には、中傷を浴びてきたホセという男の、いかにも人間臭い言葉だった。
なんて自分勝手で、だけど正直で、そしてなんと共感できる言葉だろう。実際、自分も同じような立場になれば、同じように考え、同じことを言うのかもしれない。

日本での安楽死について、生命倫理学を専門とする鳥取大学医学部の准教授・安藤泰至の言葉も考えさせられる。
「安楽死は『死は自分の私的な事柄なのだから自分で決めるべきだ』(死の自己決定権)という思想に支えられていますが、日本では自らの生き方すら自分で決められていません」(中略)「死ぬ時だけ自己決定が大切というのは、話が逆ではないでしょうか」
著者は安楽死への賛成・反対の両方への取材バランスを意識し、患者自身や医師、家族へのインタビューも試みている。安楽死の現場にも立ち会っている。あれこれ悩みながら取材を進めていく姿勢に共感し、好感を抱く。

安楽死、あるいは尊厳死についてなにか本を読んでみようと思うなら、まずは読みやすくてバランスのとれた本書を勧める。そこからもっと深く学びたければ、巻末の参考図書を読んでみると良いだろう。

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