前半は老衰と施設での余生、後半は癌を主軸とした終末期医療について。それぞれ患者や家族へのインタビューとエピソードをもとに語られ、「死にゆく人」に対して医療や福祉、家族はなにをできるのかを考察してある。
今日の医療のありかたを例え話として述べている部分が印象的である。全滅を恐れず突撃していく将軍としてカスター将軍、勝ち取れる領土と降伏すべきときを見極められる将軍としてリー将軍を挙げたあと、こう言う。
今日、医療がやっていることはカスター将軍でもリー将軍のやり方のようでもない。今、増えている医療者のやり方は、行進を続けている兵士に「止まりたいと思ったら、そのときは私に教えてくれ」と命じるような将軍と同じである。このたとえでは、兵士とは患者のことである。医師の判断をまったく示すことなく、「治療をやめたいと思ったら、いつでも言ってください」という丸投げを批判している。
著者のガワンデ先生は、自分が関わった患者だけでなく、自身の父親がガン治療を受ける姿も見ながら、終末期医療というもののありかたを考える。そして、こう語る。
医療者の究極の目標とは、あれこれ言っても結局のところ、よい死を迎えさせることではなく、今際の際までよい生を送らせることなのだ。自分自身、お世話になった人が二人、ガンで他界している。ともに60歳前後。積極的に治療や生活に関与できるような立場になかったため、自分にできることはほとんどなかった。それは分かっていても、その気になればもう少しなにかできたのではないかという後悔のようなものが胸をかすめるときもある。
「死にゆく人に何ができるか」
この問いは、医療者だけでなく、みんなが考えていかなければいけないものでもある。
さて、本書の内容はとても素晴らしい。さすがガワンデ先生である。ところが、訳にチンプンカンプンなところがある。一部は日本語としてさえおかしい。翻訳者あとがきを読むと、なんと大学で中国史を勉強している息子に下訳をやらせたとある。
おいおいおいおい!!
どうりでひどい訳が散見されるわけだ……。
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