2018年7月5日

内省的な小隊長のベトナム戦争 『プラトーン・リーダー 歩兵小隊のベトナム戦争』


ベトナム戦争で小隊長を務めた筆者による戦闘記録。まるで映画を観ているかのような描写力と、映画では表現されない殺伐とした現実と、怒り悩み内省する筆者の内面とが、絶妙に配合された名著だった。

一節を紹介しよう。
四人のベトコンが死んで横たわっている。敵の死体をながめることは不気味な衝撃だ。(中略)敵兵の死体が転がる光景を見たこの瞬間、私には強烈な歓喜が走ったのだ。
この奇妙な感情は、安堵から生まれたものでもある。(中略)
敵の誰かが倒れて、こと切れて横たわっているとしよう。パックリと傷口の開いたその死体は、彼の勇敢な戦いなど無意味だったと言わんばかりだ。それを見る者は、道徳だの何だのではなく、安堵で自分を励ますのだ。“ああ、よかった。死んだのはこいつで、俺じゃないんだ”(中略)
安堵の感情は一回一回の場面を生き長らえたという喜びの気持ちに変化していき、自分が生き残るための代償は敵の死とイコールだと思いこむ。殺すか、殺されるかの毎日のうちに、ついには敵の死の光景を見ると、条件反射的に喜びを感じるようになるのだ。自分が生きているのだという証を確認するために、相手を殺すことに夢中になるのだ。
『「戦争」の心理学』で紹介されていた本。独善的で内省の感じられない『アメリカン・スナイパー』に比べると、分量は少ないながらも深く濃密な記述に引きこまれてしまった。

最大の難点は誤字が多すぎること。「私」とすべきところが「秋」になっていたり、「鈍重」が「純重」になっていたり、かなり絶望的な誤字のオンパレード。そのあまりの多さに星1つ減点だが、それでも星4つ。中身は非常に素晴らしい一冊。

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントへの返信を一時中止しています。
一部エントリでコメント欄に素晴らしいご意見をいただいており、閲覧者の参考にもなると思われるため、コメント欄そのものは残しております。
また、いただいたコメントはすべて読んでおります。