2018年9月13日

残酷な結末を知らないまま、一生懸命に人生を歩んでいく女性の物語 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』


2007年8月24日に起こった殺人事件。被害者は磯谷利恵さん。1976年7月の生まれで、当時31歳。俺の一学年下ということになる。彼女が2歳のころ、父親が白血病で亡くなり、母親が一人で必死に育て上げた女性だった。

そんな利恵さんが、面識のない男3人に強盗目的で拉致され、首を絞められながらも、「生きたい」「死にたくない」「殺さないって約束したじゃない」と抵抗し、コンクリートを砕くためのハンマーで頭を何度も殴られ、それでもなお絶命せず、とうとう顔に粘着テープを31周も巻かれ、さらにハンマーで40回以上も殴られ、そしてついに窒息死してしまう。

本書では、冒頭部分で彼女の最期の様子が描かれ、その後に彼女の生い立ちの話が始まる。それは彼女が生まれる前、両親の出会いにまで遡って語られる非常に丁寧な伝記で、読者は一人の赤ん坊が幼女から少女、女性へと成長していく姿を微笑ましく見守ることになる。ところが、読者は彼女の凄惨な最期をすでに知っているのだ。読み進めながら、「彼女の時間がここで止まれば良いのに」と何度感じたことか……。

本書では3人の男たちの裁判についても描かれる。これについては中身を知らないまま読んで欲しいので、ここでは触れない。ただ、司法の世界に対する苛立ちと不信感が強まったことだけは記しておきたい。

ノンフィクションではあるが、自ら語るはずのない被害者の内面・心情を記述しすぎているのではないか、という印象はある。それはノンフィクションとしてはマイナス点かもしれないが、こうして内面・心情を想像で補って描写したからこそ、読者は深刻に、より身近な問題として、この事件について考えられるのかもしれない。

とても辛い内容だったが、素晴らしい本だった。

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