2018年9月21日
支援者必読! しかし、邦題がミスリーディング!! 『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』
アメリカのある病院は、オペ室が常に予定手術で満杯なうえ、予定外の緊急手術が頻繁に入りこみ、そのせいで慢性的なオペ室渋滞に悩まされていた。病院から依頼されたコンサルタントが調査した結果、この病院に勧めたのは、オペ室を一つ「空けておく」ということ。すでに予定手術で満杯なのに……。当然、外科医らは反発した。しかし、いざ実行してみると、なんと大幅に改善されたのだ。
いったい、なにが起こったのか。
「オペ室を一つ空けておく」ことで、緊急の「予定外」手術はそこで行われるようになった。すると、これまで予定外の手術のためにずらしたり調整したりが必要だった予定手術がスムーズにいきだした。急な調整による時間外労働がスタッフを疲弊させていたので、それらが解消されたことでスタッフの負担は大幅に減り、それがまた手術のスムーズさにつながった。
予定外の緊急手術のためにオペ室を一つ空けておくのは、「予定外」を常に起こりうるものとして考え、「予定外を予定しておく」ということ。つまるところ、「予定外」の手術とはいうものの、それが頻繁に入り込むのであれば、それは「予定された予定外」であり、そもそも「予定外」という言葉のほうが間違っていたのかもしれない。
時間でも金銭でも仕事でも、この「予定外を予定した」緩衝材があるだけで、負の連鎖に落ち込まずに済む。
本書は、お金や時間の「欠乏」がいかに人間の処理能力を劣化させるか、そして、適度な緩衝材があれば、その劣化をかなり防ぐことができる、ということをテーマにしている。
それなのに、それなのに。
なんでこんな邦題をつけたのやら……。これではまるで「タイム・マネジメントの自己啓発本」みたいだ。実際には時間だけでなく、というより、時間以上に、お金、貧困といったことを中心に語られていた。表紙も文庫版、Kindle版ともに、かなりミスリーディングなものである。
ちなみに、英語版のKindleはこんな感じ。
英語版のペーパーバックはこんな感じ。
本書では時間やお金、その他なにかの「欠乏」「貧困」が、その人のもっている本来の処理能力をいかに浸食し低下させるか、ということについて詳しく論じてある。その影響力は予想以上に大きいだけでなく、本人の無意識下で起こることなので気づかれにくい。さらに「欠乏」「貧困」を支援するはずの人たちの無意識下でも強く影響を与えていて、問題の原因を支援を受ける人たちの「人格」「人間性」に帰結しがちとなる。
読みながら、これは自分と家族の今後についてためになる本だと確信した。それと同時に、精神科領域における支援者として活かせるヒントに満ちていると感じた。まだ具体的な言葉にはできないが、支援する際に活用できる「考えの種」をこころにまいたような気がする。
支援のヒントを探し続けるすべての支援者にとって、大いにためになる本だろう。
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この本、読んでみます。
返信削除私は片付け業を生業としていますが、クライアントさんには障害支援をお仕事にされている方がいます。
自宅を解放されているので、眠る以外は全部仕事。結果家の中がゴミ屋敷状態。ギリギリ解放区部分はすっきりとされていますが、他の部屋がゴミだらけです。
片付けの依頼を受け、訪問しますが、ゴミの放出ができず「仕事が最優先だから」と進みません。
支援者あるあるかと思いますが、自分自身を犠牲にし過ぎてセルフネグレクトになっている方も多いので、
境界線を引くと言う意味でも「予定外を予定する」としながら、
自身の暮らしのゆとりを感じて、より良い支援者として活躍して欲しいと願うばかりです。