2012年6月21日

あいつ、医学部に受かってたんだぁ、という話

旧ブログ(エキサイト)を運営していた研修医時代、夏休みを利用して東京に行った。そこで、ブログ内で「東京でオフ会しませんか」と呼びかけたことがある。結果は惨憺たるもので、20代の男性が参加したいという連絡をくれただけだった。彼は名前をアキラといって、『外科医への道』だったか、そんな名前のブログを運営している浪人生で、再受験で医師となった俺とのオフ会に興味があるようだった。

ちょっと色気がないなぁとガッカリしつつ、中止するのもためらわれて、俺とアキラは確か新橋で落ち合った。アキラが外科医志望ということだったので、せっかくだからと手土産に、研修医室に放置してあった手術に使う本物の針と糸、それから外科研修の時にコピーした手術手順の教科書(イラストが凄く分かりやすい)を持って行った。

新橋のさびれた小さな居酒屋で、二人して酒を飲んだ。どんな話をして、どれくらい支払ったのかは覚えていない。さすがにおごったのは確かなはずだ。しっかり勉強しろよ、くらいは言ったと思う。お互いに連絡先を交換したような気もする。わりと話の合う奴で、いつか同じ立場で再会しよう、とそんなことも言ったような言わなかったような……。

さて、アキラはその年の医学受験に失敗した、ようだ。というのも結果報告がブログに書かれなかったので、こちらはそう判断せざるを得なかったのだ。それまでブログには様々な応援コメントがあったのだが、アキラが結果報告しないことで批難がいくつか書き込まれた。中には心ない言葉もあり、直接に知っている俺としてはちょっと心苦しかった。その反面、せめてご馳走してやった俺に対してくらいは、やっぱり報告は欲しいよなぁとも思った。

あれからもう3年以上が過ぎた今、ホットメールにフェイスブックから「参加しませんか?」というメールが来ていた。それを送ってきた人の名前に見覚えがあって、「あれ、これはもしかしたら」と携帯電話をチェックしたが入っていなかった。元から入れていなかったのか、どこかで削除したのかは分からない。

悶々としていてもつまらないと思っていたところ、ツイッターでも似たような名前を発見した。どうやら医学生をしているようだ。内容からは一年生か二年生だ。プロフィールにサッカー好きだと書いてある。そういえば、あのアキラもサッカーが好きと言っていたような……。フォローしてみた。すると返信が来て、「ER兄さんご無沙汰しています。ドキドキしています」というようなことが書いてあった。俺のことをこの呼び名で、しかも「兄さん」つける奴なんて一人しか思いつかない。「新橋で飲んだアキラか?」と聞くと、「針と糸をもらったアキラです」という返事。

これは嬉しい再会だった。夢をあきらめて、きっと普通のサラリーマンになっているんだろうと、そんな風に思っていたのだが、まさか頑張り続けて医学生になっていたとは。合格していたんなら、ブログにでもちょっと報告くれても良かったんじゃないのかと恨み節の一つも言いたくなるが、こうやってブログのネタにしても構わないということだったので良しとしよう。

いま、医学部に入るために一生懸命に勉強をしている人たちへ。人生はどこかで踏ん切りをつけて諦めないといけないという時は確かにある。けれど、諦めなければ道が拓くということだってある。このアキラのように。浪人も、再受験も、その他のいろいろな回り道も、医師になってしまえば大切な財産。いや、志し半ばで断念して医師にならなかったとしても、努力したという事実は決して負の遺産にはならない。健闘を祈ります。

そして、アキラは、数年後に医師国家試験に合格したら、今度は俺にご馳走し返す番だと思う。


以上、この文章を、夢かなえたアキラに捧ぐ。

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