2013年2月18日

残穢

ジワジワくる怖い話が好きな人にはお勧め!!

残穢
子どもの頃から怖い話が好きで、読んだり聴いたりしては覚えておいて、キャンプや合宿の時などに語って聞かせて怖がらせるのが楽しみだった。そういうわけで、稲川淳二ほどではないにしても、それなりに年季が入っているわけで、俺の語る怖い話は結構こわい、という評判だ。

ブックオフで副店長をやっていた時代の深夜0時過ぎ。店を閉めて薄暗い休憩室で、バイトの子らを相手にそんな怖い話を聞かせていた。すると、ある一人の男の子が怯えたようにこう言った。
「すんません、副店長、時どきふっと視線そらすでしょ。それもわざとか知らないけど、俺の後ろのほうに」
彼はそう言って、誰も座っていない折りたたみイスを顎でさした。
「そういうのマジ気になるんで怖いからやめてくださいよぉ……」
そうだっけなぁ、あんまり意識していなかったけどと思いつつ、怖い話を語る者として、こういう状況を利用しない手はない。
「いや……、だってさ……、自分でも感じてるでしょ。ていうか、たぶんみんなも。ほら……、そこ」
そう言って、また目線を彼の後ろ、誰も座っていない折りたたみイスへ。
「うわぁぁぁっ」
と肩をすくませて声をあげる彼。すると、
「なんか私も感じるんですけどぅ……」
と影響されやすい女の子が泣きそうな顔で呟く。
「あ、俺も」
「実は私も」
その場にいたバイト達がみんなして、僕も、自分も、そこに何かありそうな、いや、誰かが座っていそうな感じがすると言う。そんな声を聴きながら、俺は思う。
「え……、ちょ……、マジで……?」
内心の怯えを隠して、俺は言う。
「ま、冗談だけどね」
「なんだぁ」
「マジッすかぁ」
「いや、変だと思ったんですよ」
「ビックリしたぁ」
ひとしきり皆で安心すると、誰ともなく帰り支度を始めた。
「じゃ、副店長、お疲れさまでーす」
そうして俺は店閉めをするべく一人取り残される。戸締りを確認し、電気を消して、裏口の灯りをたよりに休憩室から暗い廊下へ出ようとした時、
---キィ
振り返って真っ先に、そして無意識に目をやったのが、さっき話題になっていた、イス。誰かが片づけたのだろうか、折りたたまれて壁に立てかけてある。いや、最初から折りたたまれていたんだったかな? あれ、どっちだったっけ……? 

たしか、誰か座っていたような……。

2 件のコメント:

  1. 雪花菜(おから)2013年2月18日 18:52

    祟り(穢れ)が伝染していく話でしたね。
    帯が畳に擦れる音とか、人形の首ブランコとか、
    この気配感が…日本的な恐怖ですね。

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    1. >雪花菜(おから)さん
      そうそう、この怖さを文章で伝えきるのが小野不由美の凄さですね。ほんと、トラウマ的です……。

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