加速度のない物語である。
普通、小説は読み進むごとに、ストーリーと自分の頭が加速していくような感覚になるものだが、本書ではそれがほとんどない。
21世紀版『アルジャーノンに花束を』と言われているようで、確かにそういう雰囲気はあった。ただ、アルジャーノンが加速して減速する物語であるのに対し、これはひたすら一定の速度で進むのだ。
自閉症が治療可能になった近未来を舞台に、自閉症の最後の世代となる35歳男性ルウの一人称視点で描かれる(一部挿話が入るが)。それが「加速度のなさ」に関係しているのだと思う。だったら、つまらないのかというと、その反対で面白いのが不思議だ。Amazonレビューの高さからも、本書の良さが分かる。
ルウはそれなりの困難を抱えつつも、得意なパターン認識を活かして製薬会社に勤務し、フェンシングの趣味をもち、フェンシング仲間の女性に恋心を抱いて生きていた。そんなある日、彼は上司から、自閉症の新しい治療法の実験台になることを迫られる。
分量は多いし、加速しないからじれったいのだが、なぜか魅力的な小説であった。
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