2016年1月5日

タイトルからすると軽い読み物という雰囲気だが、実際には記憶の専門科によるわりと硬派な本 『なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか―記憶と脳の7つの謎』


記憶には7つの難点がある。本書の章タイトルがそれらを簡潔に説明している。

1. もの忘れ なぜ、ずっと覚えていられないのか
2. 不注意 忘れっぽい人の研究
3. 妨害 あの人の名前が思い出せない
4. 混乱 デジャ=ヴュから無意識の盗作まで
5. 暗示されやすさ 偽の記憶の誕生
6. 書き換え 都合がいい記憶、都合が悪い記憶
7. つきまとう記憶 嫌な出来事が忘れられない

記憶におけるこれらの難点は、確かに我々を戸惑わせたりイラつかせたり落胆させたりする。ではこの難点は脳の記憶システムの不具合なのかというと実はそうではなく、長い進化の歴史の中で培われてきた適応の一種なのだと著者は言う。「忘れるからこそ」情報の取捨選択や要約ができ、また「忘れられないからこそ」二度と危険な場所には近づかないといった行動をとるというわけだ。

タイトルからすると軽い読み物という雰囲気だが、実際には記憶の専門科によるわりと硬派な本である。それもそのはず、本書の著者は1991年からハーバード大学心理学部教授、1995年からは同学部の学部長を務めたような人物である。

原題は『The Seven Sins of Memory』で、直訳すれば「記憶における七つの大罪」といったところ。訳者あとがきに「専門知識のない人にも充分に楽しめるように」訳したとあるが、無理したせいか、逆に読みにくくなってしまっているのが残念。

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