2018年8月14日

クリスマスも誕生日も私にはなかった。なのに、娘がプレゼントに文句言ったりするのが、とにかく許せない。 『誕生日を知らない女の子  虐待 その後の子どもたち』


彼女はなぜ、娘の臓器写真を平然と直視できたのだろう。
この衝撃的かつ印象的な一文で始まる、被虐待児と彼らを養育する里親に焦点を絞って取材したルポ。

被虐待児は施設から里親へ行くと、少しは幸せになれるのかというと、そう簡単な話ではない。2010年には東京で、3歳7ヶ月の女児が里親による虐待で死亡した。この事件を考えるための緊急集会に集まった里親たちのうち、50代の男性がこんなことを話したそうだ。
「私は里子を預かるまで、子どもは愛情さえあればスクスク育つものだと思っていました。実子はそうやって育ちましたから。三歳の男の子が里子に来てから、妻は一年間の記憶がないと言います。私もまだつらくて話せない。ひょっとしたら殺してしまうかもと思ったこともあります。正直、子どもへの怒りが湧くこともありました」
この集会に参加した著者が、
里親たちが、これほど傷つき苦しんでいるとは思いもしないことだった。里親たちを苦しめるもの、それこそが「虐待の後遺症」なのだ。
こう言うように、虐待を受けた子を里親として養育することには、我々の想像を絶するような苦労がある。いや、それは単に「苦労」という言葉だけでは言い表せないような、それこそ「ひょっとしたら殺してしまうかも」と思ってしまうほどのものなのだ。

ある里子の女児と、里親である女性との会話。
「ねぇ、ママとパパもケンカするの?」
「そりゃあ、するよ」
「えー、じゃあ、包丁とかハサミとか、持ってくるのー!」
「みゆちゃん、それは、ない、ない」
「よかった!」
この後、親子二人で笑い合ったようだが、この女児の実父母はそういうケンカをしていたのだろう。自分たちだけならともかく、子どもの前でそんな修羅場を演じている親がいるということは、決して笑いごとでは済まされない。ケンカは見えないところでやりましょう。

性的・身体的な虐待を受けて育ち、自らも母親になった女性へのインタビューで、彼女はこんなことを言う。
「上の子は女の子だからなのか、育児のたびに否が応でも自分とかぶるんです。育児をするうえで、フラッシュバックを体験するというか……。『あの子歩いたな、よかったな。うれしい』って思った瞬間、『誰が私が歩いたのを喜んだ? 誰が私が歩いたのを見ただろう』って、だんだん上の子に当たっていくんです。こういうのを成長の節目、節目に思うんです。クリスマスも誕生日も私にはなかった。なのに、娘がプレゼントに文句言ったりするのが、とにかく許せない」
彼女は実際に我が子に虐待をしてしまう。そして自ら児童相談所に連絡をして子どもを預かってもらった。彼女はその後、精神科へ入院するが、そこでカウンセラーから、
「子どもを自ら児相に預けたことは、あなたが子どもを守った、立派な行動だった」
という言葉をかけてもらい、自信につながった。

子どもを2ヶ月預かってもらい、自らも精神科に入院して、心機一転で虐待を断つことができた、となれば良いのだが、そう簡単な話でもない。実はその女児には発達障害があり、その育てにくさに対するイライラから、どうしても蹴ったり叩いたり、「ベランダから飛び降りろ」「生まないほうが良かった」といった言葉の暴力が続いてしまう。根の深さ、解決の難しさに暗澹とした気持ちになるが、少なくとも彼女自身が受けた虐待や養育環境からすれば「いくらかマシ」であり、そこに希望の光が見える、というより見出すしかない。

著者のこんな言葉が印象的である。
一般に「親の、子への愛は無償だ」と言われるが、虐待を見ていく限り、それは逆だとしか思えない。子の、親への愛こそが無償なのだ。
切なさに涙がこみあげてきたり、憤りを感じたり、時にふっと笑顔になれたりしながら読んだ。そして、精神科医として、虐待ケースの発見とサポートにますます気をつけて取り組もうと思わされた。


<関連>
今までに読んだ虐待関連書籍で、最もキツかったのがこれ。
殺さないで―児童虐待という犯罪



発達障害ということで関連して、最近読んだこれも参考になった。

1 件のコメント:

  1. >里親たちを苦しめるもの、それこそが「虐待の後遺症」なのだ。
    >虐待を受けた子を里親として養育することには、我々の想像を絶するような苦労がある。

    →ちょっと気になったのですが被虐待児は養育里親に委託されないはずです。
    被虐待児の養育はやはりかなり大変ですから
    施設委託か
    里親なら養育里親の経験がすでに何年かあり一定の研修等を受けて認められた「専門里親」に限られます。
    初めて委託された子が被虐待児、ということはありえないはずです。
    養育里親には里子ひとりにつき年間200万円を超える経費が支払われます。
    志の高い慈愛深い里親さんももちろん大勢おられるとは思いますが
    どんな大企業でも公務員でも年間200万円も家族手当が支給されることはありえません。
    どうしてもお金目当ての方もいるのではないか?
    と疑いたくなるのです。
    お金目当てで引き取り育てきれなくなったら
    被虐待児ではないのに何でも「実父母の虐待」のせいにしてしまう、
    そんな心配をしてしまいます。
    個人的には里親制度は廃止し、
    子の福祉を考えるなら特別養子縁組に統一すべきではないかと思っています。

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