小学校の時、植木イッコウ先生という変わった名前の教頭先生がいた。もう50歳を超えていて、ロマンスグレーでちょっとメタボな先生だった。小学校は全校生徒が130人足らずという田舎の学校で、植木先生はすでに6年以上もその学校に勤務していた。1年生から6年生まで、みんなが植木先生を大好きで、クラスのひねくれ者でさえ植木先生の言うことはよく聞いた。
植木先生は、そんな山の中の小学校にほれ込んで、毎年転勤しないですむように市に頼み込んでいたらしい。僻地小学校で働きたがる人は多くないので、植木先生の願いは特例として聞き届けられていた。きっと先生は定年までいたいと思っていたはずなのだが、俺が6年生に上がるとき、とうとう転勤の辞令があった。
終業式の日。教頭だった植木先生の挨拶は、転勤する先生の中で一番最後だった。それぞれの先生が数分間のお別れの挨拶をして、みんなが涙モードになったところで、いよいよ植木先生の出番となった。校長先生から名前を呼ばれた植木先生は、うつむいて壇の前に立った。マイクを通してスピーカーから、先生の鼻をすする音が聞こえた。
「わたしが……」
そこで先生は言葉を詰め、
「植木……」
そして、また喋れなくなり、
「イッコウです!」
と言うなり嗚咽して、あとはもう体育館中が、
「せんせー!」
「行かんでー!」
と号泣の嵐だった。
あの挨拶だけは忘れられないなぁ。
微笑 これだけで、どんだけいい先生だったかってことがわかります
返信削除>junkoさん
削除そう、いい先生だったんです!!