2012年6月8日

校庭でのボール遊び禁止

小学校の校庭で、5年生の少年の蹴ったサッカーボールが校庭を転がり出して、そこを原付で通りかかった高齢男性がボールを避けようとして転倒して骨折、それから認知症になって約1年半後に肺炎で死亡した。そこで遺族は、このボールを蹴った少年と両親を訴え5000万円の損害賠償を求めた。その裁判の控訴審が終わり、裁判所は少年側に1180円の賠償を命じた。

訴訟のきっかけから結果まで、すべてに違和感のある事例だ。ネット上での意見の大半は、こんな裁判おかしいというものだが、一部には哀しい必殺技「自分の立場に置きかえてみろ」を繰り出している人もいる。すなわち、「自分の家族が、同じような事故にあっても許せるのか」という意見である。このブログでも何度か書いているように、自分が同じ立場になって同じことを言えるわけがない。しかし、それはみんな同じはずで、この事故に関してだと、「同じこと言えるのか!?」と言っている人は、少年の家族の立場でも同じことが言えるのかを聞いてみたい。「同じこと言えるのか!?」という糾弾は、使う者にも跳ねかえる哀しい武器なのだ。

ところで、これは記事を読めば分かるように、ボールが高齢男性に当たったわけではなく、ボールを避けようとした男性が転倒した事故だ。校庭に沿った公道を自動車などで走る場合、子どもが飛び出してくるかもしれないと注意する義務、これは当然運転者にある。この裁判の判決(一部男性の責任も認めてはいるが……)が妥当だとするなら、もしボールではなく子どもが飛び出して起きた事故であったとしても、やはり子ども側に賠償責任が発生するということにならないだろうか。法律には詳しくないので、「ぜんぜん違う!」という人がいれば教えて欲しいところ。

それにしても、1000万円は大きい。何千万円の横領とか、何億円の不正融資とか、そういうニュースに見慣れていると大した金額に感じないかもしれないけれど、いざ自分に、それも自分には責任がないと思えるようなことで「1000万円払え」なんて命令が下されたら……、家の中がかなり暗くなる。話が少しそれるが、『何でも鑑定団』で皿の自己評価が1000万円、「じゃかじゃん!」で5万円だった時の失笑する感覚、と言えば分かるだろうか。よくよく考えたら5万円の皿なんて凄いじゃん、我が家の宝じゃん、そんなお皿では怖くて料理食べられないよ、みたいな。

俺は最愛の祖父を今年1月に亡くしたが、祖父がまだ70代のころに、「もう車を運転させないようにしよう」という家族会議があった。自損事故ならいくらでも構わないが、もし人様に迷惑をかけたら大変だからだ。この高齢男性の家族と同じ立場になったとしたら、原付を運転させてしまった自分たちを責める。とはいえ、この男性に運転させていた遺族を批難したいわけではない。ただ、いくらなんでも訴訟は行きすぎだろうと、その点は大いに批難したい。また、裁判官の判断も狂気じみている。

ボール遊びしている校庭なんていくらでもあるし、たまにボールが外に飛び出すことなんてしょっちゅうだろう。こんな判例がまかり通るようでは、当たり屋ならぬ「転び屋」が出てきてもおかしくないぞ。

ちなみに、この亡くなった男性、87歳だったのだとか。転倒骨折も認知症も肺炎も、すべてを少年のせいにするのって、どうなの?
校庭からボール蹴った元少年側に2審も賠償命令
愛媛県今治市で2004年、オートバイに乗った80歳代の男性が、小学校から飛び出たサッカーボールを避けようとして転倒し、この時のけがが原因で死亡したとして、大阪府内の遺族らが、ボールを蹴った当時小学5年だった元少年(20)の両親に計約5000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が7日、大阪高裁であった。
岩田好二裁判長は、1審・大阪地裁判決に続いて元少年の過失を認定し、両親に計約1180万円の賠償を命じた。

岩田裁判長は「校庭からボールが飛び出すのは珍しくなく、注意しながら走行すべきだった」と男性の過失を新たに認定し、賠償額を約320万円減額した。

判決によると、04年2月、元少年が校庭で蹴ったボールが道路にまで転がり出て、男性がオートバイごと転倒。足の骨折などで入院し、その後、生活状況の変化で体調が悪化し、翌年7月、肺炎で死亡した。
(2012年6月8日07時44分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120607-OYT1T00932.htm

2 件のコメント:

  1. いや本当に変な話
    でさ、87歳になったら、バイクやめれば? とも思う...

    それより、両親にこんな大金を払わせなければならなくなったこの子の気持ちの負担が、気になります

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    1. >junkoさん
      自分のせいでこの高齢男性が亡くなったということを裁判所が認めたわけですもんね。それは絶対に違う、君のせいではないとこの子に言ってあげたいです。

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