第三セット14対12。
一本落とせば、負ける。
第一セット15対3で取られ、開き直った第二セット。
ひたすら粘り15対13で取り返した。
彼はラケットでふくらはぎを叩き、震える足の感覚を取り戻そうとした。
グリップを強く握る。
シャトルを打つ力は残っている。
相手がサーブの構えに入る。
彼はシャトルに集中しつつ、ネット越しに相手の動きを注視した。
ロングか、ショートか。
来た!
ロング。
フォア奥に来たシャトルを、彼はストレートのクリアで返そうとしたが、
右足親指に痛みが走り、体がぶれた。
シャトルはまっすぐ飛んだが、距離が伸びない。
相手がシャトル下に入り込んだ。
何が来る?
彼は全身をバネにして相手のショットを待った。
ほんの一瞬、時間も空気も止まったような緊張感。
クロスカット。
彼は冷静にシャトルに追いつき、フェイントを入れて、ヘアピン。
きれいな軌道。
相手が勢いよく前に出て、バック奥に大きく返してきた。
取る!
ひたすら足を運び、ストレートのクリアを打った。
相手の動きを追う。
相手もストレートのクリア。
また、バック奥。
右足親指が気になり、シャトル下に入り遅れた。
手打ちのシャトルは、中途半端なクリアになった。
それはつまり、相手にとってのチャンスボール。
来る!
彼は身構えた。
スマッシュレシーブは得意だ。
レシーブから巧く切り崩して、逆にチャンスを作ってやる。
案の定、スマッシュが来た。
フォア側、ライン一杯。
右手を思い切り伸ばしながら、グリップを端一杯に持ち替える。
届け!
シャトルがフレームに当たった。
ギリギリ。
汗が落ちた。
シャトルはネットすれすれを越えた。
相手が体勢を崩しながら追いつき、シャトルを上げてきた。
しかし、中途半端だ。
跳びつけ!
彼は、右足に力を入れた。右足がフロアを蹴る。
しかし、右足に伝わってきたのは、大きく滑る感覚。
汗。
汗で滑った。
左手をフロアにつき、左足を蹴りだす。
追いつける!
なんとか追いつきバックハンドで打ったシャトルは、緩く、相手正面へ飛んだ。
シャトルが、彼の足下に叩きつけられた。
足の力が抜け、フロアに両膝をついた。
両手をつくと、相手もネットも見えなくなり、フロアがにじんで見えた。
そしてそこに、ぽたり、ぽたりと、しずくが落ちた。
ゆるゆると立ち上がり振り返ると、仲間たちが目に入った。
仲の良い後輩が遠慮がちにタオルを渡してくれた。
タオルで顔を覆った。
ちくしょう、汗が止まんねぇ。
軽い調子で出したはずの声が、かすれて、震えた。
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