2012年11月6日

オカマの友人ヒラキの思い出

15年以上前の話。

九州大学の学生だった頃、友人に本物のオカマちゃんがいた。香川の出身だった。ずいぶん昔のことだ。名前は出しても良いだろう。ヒラキ。下の名前はさすがに隠す。

朝、学校で出会うと、
「おはよ~う」
と俺に近寄ってきて、凄く当然のようにスッと俺の手を握るヒラキ。そして、その手は握って離さない。そのまま、手をつないで歩く。いてもたってもいられない俺。
「おい」
「なに?」
「離せ」
「なんで?」
顔はハンサムでも不細工でもない彼。中性的でもない。色白で、切れ長の目。坊ちゃん刈りで、切りそろえた前髪。口元は、常に微笑。そんな彼が、真顔で「なんで?」と聞いてくる。俺は、戸惑いながら答える。
「……、理由なんかねぇよ!! 離せ!!」
「えぇやん」
ヒラキは、すごくサラッと言ってしまう。思わず、
「あ、そうやね」
と言いそうになる……、んなわきゃない。
「とにかく離せ、ボケこら」
手を振りほどくと、凄く寂しそうな、傷ついた顔をするヒラキ。なぜだか、心がキュンと痛む俺。いやいや、だまされないぞ。俺は、ノーマルだからな。

ホモにもオカマにも偏見はないけれど、自分自身が愛されるのは迷惑だし、嫌だ。理屈じゃない。本能なんだ。
俺、男。
お前、男。
どちらも、男。
男と男は、セックスしちゃダメなんだ。ヒラキ、それくらいは分かるだろ? そうだよな、そこは分かってもらえ……、いやいや、チューもダメなんだって!!

そんなヒラキは、誰にでもホモっているわけではなく、俺と、俺の友人のホリウチにだけモーションをかけてきていた。未だに、ヒラキがなぜ俺たち二人をターゲットにしていたのかが分からない。ホリウチは俺と同じ身長で、体重は110kgという巨漢。俺の恋愛対象は女性だし、百歩譲ってもホモ体験に興味はない。ヒラキに対しても素っ気なかったと思う。

そんなヒラキだったけれど、とにかくもの凄く頭が良かった。頭脳明晰で、咥えて、じゃなく、加えて非常に真面目だった。授業もほぼ完全に出席していた。九州大学経済学部では上位十人に入っていたと思う。俺とホリウチは試験の前になると、ヒラキからノートを借りた。ヒラキは、俺とホリウチのことが好きだから、快くノートを貸してくれた。

ところが、である。超優秀であるヒラキの書く文字は、字を知らない子どもの落書きに近い。それはもう字が下手というレベルではなく、古文書の域にまで達していた。読みにくい、のではない。読めない、というのとも違う。まず、俺の脳みそが、それらを文字として認識できないのだ。アラビア語の方が、まだ文字として認識しやすいくらいだった。結局、ヒラキのノートはコピーせずに返した。

疑問なのは、ヒラキが九州大学に合格したことだ。いかに頭が良くても、二次試験の解答用紙があの文字では、採点する人の気が萎えて放棄しても良さそうなのに。あの文字で合格したということは、本当に天才的なのだと思う。

あれからもう15年以上が経った。俺もそれなりに色々と経験してきて少しは大人になって、思い返してみるとあんなに俺のことを好きでいてくれたんだし、ヒラキとキスくらいしてあげても良かったのかな~。

なんて、思うわけがないよね。

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