人は嬉しいから、あるいは楽しいから笑うのだろうか?
もちろんそうだ。
だがその逆もあるらしい。つまり、笑うから、いや、実際に笑わなくても、笑ったような顔を作ることで、嬉しさや楽しさが引き出されるということだ。
固有反射心理学という研究分野があり、そこでさまざまな実験がなされている。例えば、あるグループには歯で鉛筆くわえて唇につかないようにしてもらい、もう片方のグループには歯を使わず突き出した唇だけで鉛筆をくわえてもらう。こうすると、歯を使うグループは顔の下部分が笑顔に近くなり、唇だけだと不満げになる。ただこれだけで、本人の気分に差が出るというのだ。他にも様々な実験が行なわれており、結論として、気分が行為を左右するだけでなく、行為が気分を左右することは確かなようだ。
これは精神科医として診療にもの凄く有用な知識である。歯で鉛筆をくわえて笑顔のような顔をするだけで気分が少し明るくなるのなら、診察室には患者用の鉛筆を用意しておいて、それを口でくわえてもらいながら診察をするのも独創的で良いかもしれない。というのは半分冗談にしても、デイケアや作業療法、院内活動などで「笑顔体操」なるものを考案して実施するだけで、患者の気分が上向くかもしれない。実際にやるとしたら、患者が笑顔を押しつけられたと思わないよう、「アンチエイジングの顔面体操」といったネーミングが良いのかもしれない、というのは結構本気。
本書はそうしたことを考えるキッカケになる一冊。『その科学が成功を決める』という邦題は胡散臭さを感じさせるが、著者はハートフォードシャー大学の心理学教授であり、また本書の執筆にあたっては240以上の文献(心理学論文や『サイエンス』『ネイチャー』といった科学雑誌)を参考にしてあり、トンデモ本の類いではない。お勧めである。
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