患者さんや家族から、簡単な仕事の代表のように「コンビニ店員でもやって生活」みたいな言葉が出るたび、いやいや実はめちゃくちゃ大変な仕事ですよ力説している。
たいていみんな「バーコードをピッピッとやって袋詰めする仕事」くらいにしか思っておらず、入荷時検品、品出し、公共料金、配送、調理、清掃、クレーム処理、その他のことをまったく知らない。
幅広い業務と臨機応変さを求められるコンビニ店員という職業には敬意を抱いている。これはまぁ、自分もコンビニで長くバイトしたという身内びいきも入っているのだが。
なにはともあれ、精神科に来る患者さんたちにコンビニ勤務は絶対に勧められない。
ライン工場で働いたこともあるが、単調さに嫌気がさして一日で辞めた。簡単と言われる仕事も、向き不向きはかなりある。そういえば同じ工場に、九大の文学部大学院に通うTさんという先輩がいて、彼は、
「手だけ動かしておけば、頭の中は自由に使える最高のバイトや」
と言っていた。
それから5年後、医学部に入ったあとに教養の授業で再会。Tさんは言語学の講師になっていて、俺は偶然にTさんの授業をとったのだった。ライン工場で働きながら自由に使った頭で博士論文を書かれたのかもしれない。授業の中身はサッパリ分からなかった。
ライン工場では一日しか働いていないので、あまりたいそうなことは言えないが、他者とのコミュニケーションが最小限で済み、臨機応変さをあまり求められず、コツコツまじめにやれば評価される、という点で、何人かには勧めている。
自分が未来で精神科医になるのだということを知っていれば、もっといろいろな職業にトライしていたかもしれないと思う、と同時に、俺は怠け者だから、精神科医になることが分かっていたらノンビリ生きてしまったかもしれないとも思う。
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