2018年12月7日

依存症とかかわるすべての人にお勧めの名著 『人を信じられない病 信頼障害としてのアディクション』


素晴らしい本だった。以下、本書を紹介するにあたり、著者が用いる言葉を大まかに整理しておく。

アディクト 依存症者のこと
ソフトドラッグ群 アルコール、処方薬、危険ドラッグへの依存症者
ハードドラッグ群 覚せい剤依存症者、多剤(上記)依存症者

以下、簡略化するため、引用以外では依存症者、ソフト、ハードと記す。

ソフトとハードの依存症者を比較した場合、ハードのほうは幼少期から虐待や親の離別・自殺、同級生からのいじめによる不登校など「明確な生きづらさ」「過酷な生育歴」を生き延びていることが多い。

これに対してソフトのほうは「暗黙の生きづらさ」を抱える。この「暗黙の生きづらさ」は、親の不仲、父の酒乱、母の精神疾患など、その状況にいる本人でなければ実際の苦しさが分かりにくいものである。彼らは自らの我慢と努力で周囲に適応していく。この適応は決して適度・適正なものではなく「過剰適応」だ。

ソフトの依存症者たちは、
「我慢を続けてきた人」なのだ。だからこそ、彼らはアディクトではない人々より実ははるかに我慢強い。通常ならとっくに音を上げて、誰かに泣きつきたくなるような状況でも、アディクトは我慢し続ける。泣きつけるほど信頼できる、安心できる他者を彼らはもっていないからである。(中略)家族や友人たち、同級生や職場の同僚などには気づかれていないが、アディクトたちは基本的に「人」と一緒にいると疲れる
そして、依存している物質や行動によってこころが楽になった依存症者たちは、
自分が普段我慢して隠している本音や負の感情を周囲の人々に気づかれることなく、表面的には元気で明るく真面目な「ふり」をして、再び「人」のいる「我慢の戦場」へと踏み出すことができるようになるのだ。
自分自身がアルコール依存からの回復の道を歩む者として、とても身につまされる、非常に納得のいく文章である。

全体を通じて印象的なことが多く、とてもすべてを引用はできない。依存症者への援助・支援について書かれたところから、いくつか抜粋しておく。

海外の研究では、どんな治療であれ、患者が脱落せず長く治療にとどまっていれば、それだけ断酒断薬の可能性が高まると報告されている。
良い援助者とは、最終的にアディクトがその特定の援助者を必要としなくなるように背中を押してあげる援助者のことである。
最後に、違法薬物について。「ダメ。ゼッタイ」という禁止の言葉は、依存症者たち、子どもたちには届かないだろう、というのが著者の主張である。彼らは「人」を信用できないからこそ、効果が確実な「物」や「行動」に依存するのであり、そこが改善されない限り、依存の回復は難しいというわけだ。それを分かりやすい例え話でこう述べる。
太平洋の真ん中で、まったく泳げない人が「違法な浮き輪」につかまって漂流しているところを発見したら、あなたは「ダメ。ぜったい」と言ってその浮き輪を手放すよう命じたり、無理やり奪い去ったりするだろうか。相手は浮き輪の違法性に困っているのではない。泳げなくて漂流していることに困っているのだ。(中略)子どもは、薬物の有害性や違法性に困っているのではない。孤独と不安という感情の対処に困っているのである。
依存症者への援助に携わる人だけでなく、本人、家族が読んでも得ることの多い本で強くお勧め。

補記
アルコール依存症の治療目標は「治癒」ではなく「回復」と言われるが、著者は「回復」についてもやや否定的で、それよりは「成長」を目指そうと唱えている。詳しくは本書で。

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