2011年12月2日

「白血病患者が7倍」というデマ記事とその反応について思う

2011年12月、いわゆる「ソースは2ちゃん」もののデマがやたら流行している。以下、非常によく書けているデマ文書。
各都道府県の国公立医師会病院の統計によると、今年の4月から10月にかけて、「白血病」と診断された患者数が、昨年の約7倍にのぼったことが21日に判明した。 これを受けて、日本医師会会長原中勝征は、原発事故との因果関係は不明として、原因が判明次第発表するとした。
白血病と診断された患者の約60%以上が急性白血病で、統計をとりはじめた1978年以来、このような比率は例が無いという。また、患者の約80%が東北・関東地方で、福島県が最も多く、次に茨城、栃木、東京の順に多かった。
詳細な検証はしないが、ちょこちょこっとツッコミを入れておく。

まず、肝心かなめの統計元である「国公立医師会病院」について。医師会病院というものは各地に存在する。
全国の医師会病院
上記で確認できるのはホームページを作っている医師会病院だけなので、実際にはもっとたくさんあるのかもしれないが、今のところ不明(ネットがこれだけ普及している今、ホームページを作っていない医師会病院もどうかと思うが)。
この医師会病院が国公立なのかどうか。名前はなんとなく国公立っぽい響きがあるが、医師会は国公立の組織ではなく、ただの社団法人。公“的”組織であり、公”的”病院かもしれないが、公“立”ではない。国公立PTAというのと同じくらい変なわけ。

次に、統計で出た数字をざっと検証する。ネットで調べた限りでは、
「年間罹患率は人口10万人あたり男性 5.9人、女性 3.8人」(がんプロ.com
男女合わせて、だいたい10万人で10人弱が罹患するということ。日本の人口を1億2千万人とすると、年間1万2千人、半年で6千人くらいが罹患しているということになる。意外に多くて、身近な病気だということが分かる。それはさておき、上に紹介した(デマ)記事が正しければ、これがこの半年間で7倍になったのだから、4万2千人が罹患したことになる。そのうち80%が東北・関東だというのだから、3万3600人。おいおい、これでテレビニュースにならないのは変だろう?
変だと思わないかい?
思わないのなら、それはなぜ?
隠ぺいだと思うから?
テレビもグルになっている?
でも、国公立医師会病院(笑)が発表しているんだよ。
隠ぺいもへったくれもあるかいな。

mixiでも、このニュースを日記に書いている人がいた。そして、その記事に飛びついて「情報ありがとうございます!」なんて感謝している人もいた。さらに、その感謝に対して「いえいえ、どういたしまして」と。おいおいw コメントでやんわりデマだと教えたら、個人的にメッセージが来た。
件名:あの…
勝手にデマなんて言うなよ。
自分でちゃんと調べて物を言え。
あんたも騙されてる側か?それとも雇われか?w
雇われてw 誰にだよw
「自分でちゃんと調べてものを言え」という典型的なブーメラン攻撃。「ちゃんと」調べなくても、ほんのちょっと調べただけで、ここに書いたような医師会病院や罹患率についてのことはすぐ分かるでしょ。

驚いたのは、このデマがツイッターでとんでもなく拡散しているということ。医学の世界に身をおく者として、「7倍」という数字はとんでもない数字なんだけれど、それがなんの疑いもなく受け入れられていることに、ちょっとした恐怖さえ感じた。ツイッターもmixiも、プロパガンダ・ツールとしては非常に優秀だ。

今回の記事は、文章はよくできていたが中身が杜撰だったから良かったものの、これが「国公立医師会病院」ではなく「関東・東北の医師会病院での総計」とか、「7倍」でなく「1.1倍」とか、そういう微妙なラインだったら、俺も素通りしたかもしれない。おそらく、敢えてそういうツッコミどころを配置したデマ記事なのだろうが、作者の意図した以上に大騒動になったというのが実際のところかもしれない。


<追記>
日本医師会から正式に発表があった模様。
日本医師会が、このような発表を行った事実はありません。

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