2012年1月11日

統合失調症と癌の告知

現在、統合失調症の告知は今はする方が一般的になってるが、これは精神科医の保身や免罪符的なもの、医療裁判なども微妙に関係している。僕の世代の精神科医、特に僕の大学医局では告知はしないのが普通だった。そのスピリッツは医局同門に連綿と流れていた。

かつて研修医の時、教授がある患者さんの症例検討会の際に、統合失調症の告知の事に関して、医局員の前で、こんな風に話した。

統合失調症の告知?
本人や家族が聞いたら、どんな風に感じると思うかね?そんなことを言わなくても、治療がうまくいけばそれで良い。昔の精神科医は、涙を流して「統合失調症」と診断書に書いたものだ。

全くその通りである。この「涙を流して・・」と言う下りは、「この人は自分が一生、面倒を見る」覚悟の意味合いがある。やはり統合失調症は大変な精神疾患なのである。その流れを汲む自分は、ロスト・ワールドな精神科医なのかもしれない。ラミクタールやトピナを使っていても、クラシックな精神科医なのである。

本来、統合失調症の告知に限らず、医療場面では同じような状況にしばしば遭遇する。

癌や統合失調症の告知は、ある種の暴力なのか?
統合失調症やアスペルガー症候群の告知は残酷。

そういう気持ちがあるから、告知は避けるのである。これは長年、そのスタンスだけは変わっていない。これはあの症例検討会の時の言葉がずっと頭に残っているからだと思う。
時間がある時にはけっこう読んで参考にもしているブログ。
統合失調症の告知と予後より引用。

俺はこの考えには賛同できない。確かに、古い時期、まだ抗精神病薬がなかったころは、不治の病いだったかもしれない。しかし、いまや統合失調症の多くは抗精神病薬の内服継続でかなり良好な経過をとる。

癌の告知と並べてあるが、その並列は本当に正しいのだろうか。きちんと治療を受ければ治る癌もある。しかし、告知が残酷な暴力だからといって告知をしなかったがために、患者が油断して治療を中断して病院に来なくなり悪化するということもありうる。

精神科医は、希望も処方しなければいけない。癌を告知する場合、単に癌だと告げるだけでなく、それがどんたタイプの癌であるのか、どのような治療方法があるのか、その治療はどれくらい続けるのか、どれくらいの頻度で通院するのか、どんな副作用があるのか、良くなる見込みはどれくらいか、どういう生活を心がけるのが良いのか、その他、たとえば費用や他の治療施設についてなど、いろいろと伝えるはずだ。それは決して訴訟対策としての防衛的なものではない。「訴訟になってもこちらに非がない」というのは、一生懸命にやった結果であって、非がないように保身や免罪符として告知をすることが防衛的だというのは少し違っている。

医師の告知に対するスタンスはさまざまで、正しい言葉や方法があるわけではない。もしもそういうことをガイドライン化したら、それこそ防衛医療である。正解がないから悩むし、答えがないから試行錯誤する。「自分は告知しない」というスタンスは、いろいろなものを引き受ける覚悟の顕われであると同時に、いつ、どうやって、どんな雰囲気で告知したらいいのかについての苦悩を放棄していないだろうか。

雰囲気というのはなかなか言語化できないし、言葉にしたとしてもうまく伝わらないことが多いので、上に紹介したブログの先生がどのような雰囲気で診療されているかは分からない。あくまでも、ブログの内容を媒介として自分の考えをまとめようとしただけなので、ここで俺が述べたことについても、一言一句の言葉尻をつかまえるのではなく、こういうスタンスもあるんだというくらいの大雑把なニュアンスだけ掴んでもらえたら良いと思う。

2 件のコメント:

  1. たまぁーに、おはよぅござぃます(^-^)☆

    伝える側の難しいことは分かりませんが…(´-ω-`)。

    入院した病院は統合失調症を専門としています。私は解離性障害ですが、よく一緒につるんでた(爆)3名の方のうち、2名は病識がありました。その方達は確実に良い方向に向かい、閉鎖から開放へ、あるいは退院へと進みました。

    残念ながら、病識のない(知らされていない)彼女だけは「私は病気じゃない」と言っていて、本人が全く『治そう』『治りたい』と考えていませんでした。

    素人の私たち、統合失調症の当事者である2人の彼女たちでさえ、その方に対して「病気を知った方が良いよ‥」という気持ちを持っていました。

    ド素人が余計なこと書きました(__)。が、これは当事者たちの事実ですよ(^-^)。

    でゎまたいずれ~♪
    テクテク 。。。。。"8-(o・ω・)o βyёβyё

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  2. >ひかるさん
    たまにおはようございます。
    病気である、と自覚までいかなくとも、なんか変だなぁくらいに思ってくれたらいいんですよね。
    で、医者や看護師の言うとおりに薬飲んでみたらちょっと楽になった、という感じ。
    説得や納得にはタイミングが必要だし、無理に勧めてもいい結果にはならないですもんね。
    告知は、医師の信念というかスタンスというか、そういうものが問われる場だと思っています。

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