2012年3月10日

処方ミスと薬剤師

リスパダールという抗精神病薬があり、これは鎮静効果が強いので、興奮の強い認知症患者に対して少量投与されることが多い。

施設入所していて、そこで手がつけられないくらい暴れ騒ぐ高齢者に対して、リスパダール細粒を力価換算で0.8mg処方していたが、まったく効果がみられないということで力価1mgに増量した……つもりが、勘違いして力価10mgの処方になっていた。2週間後に会った患者は過鎮静に陥っており、そこで自分のミスに気がついた。施設職員、患者に説明をして、しばらくの間、内服を中止することにし、そのあとは力価1mgの処方とした。

ところでこのような場合(今回のように0.8mgで処方されていたような薬がいきなり10倍以上の量で処方されるなどした時)、薬局薬剤師から処方医に対して間違いないか疑義照会があるのが普通であるし、今回の場合は絶対に疑義照会して欲しかった。ツイッターで薬剤師から「リスパダール4mg以上の処方の場合、過去の処方歴をみてそれ以上の処方がなければ疑義照会の対象である」という指摘を頂いた。

もちろん、処方した俺の責任・過失が最大であり、決して免れるものではない。ただ、医療をチーム活動としてとらえ、薬剤師を薬に関する最終関門のゲートキーパーと考えると、今回の一件は薬剤師の見落としも批難されて仕方のないことではある。上記で指摘くださった薬剤師はこういう言葉も残された。

「薬剤師は調剤マシーンであってはならない」。

※薬剤師の起源は、貴族が処方する主治医と調剤者を分離することで、自身の暗殺を防止するためだったという説が有力である。

8 件のコメント:

  1. ミスをこうして書かれることは勇気がいると思います。
    私のよく行く薬局は必ず「いつもと同じですね」とか「いつもの薬がないけれどいいのですね」などと確かめます。
    ちゃんと指導料みたいなのが請求されているのだ「こんな指導は要らねえや」と思っていたのですが、医師のミス防止の意味があるのですね。

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    1. >佐平次さん
      俺は自分があまり病院にかからないので、薬局に行った経験もあまりなく、どういうシステムなのかもあまり知らないんですが、指導料というのには「医師への指導」も含まれているのかもしれません。薬剤師からの疑義照会で救われたことが何回かあります。

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  2. 薬局薬剤師です
    施設入所されているということはどこかかかりつけの薬局が決まっていたということでしょうか?
    そうであれば薬剤師の責は医師と同等以上ですね
    背景はよくわかりませんが、「薬の量がかなり増えてるけどどうしました?」「暴れるので先生にお願いして増やしてもらいました」といったやり取りはあったのかもしれません
    いきなり10倍になった処方に対して疑問をもたない薬剤師は現場に必要無いですね

    一方でもしかかりつけではなく薬局を点々としていた場合、これを止めるのは難しいかもしれません
    ツイッターでの4mg以上は疑義の対象というのは根拠がよく分かりません
    リスパダールは1日12mgまで増量可能な薬だからです
    新規で飛び込みでもこれまで飲んでいたと言われればそれを疑義することは難しいです
    私個人の考えですが、医師の匙加減というものが大きすぎて疑義の障壁になっていると思います
    医師によっては怒鳴り散らす人もいらっしゃるので

    もっとも薬剤師の圧倒的な勉強不足よるものが一番大きいのですが…
    いろいろ考えさせられる投稿でした

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    1. >匿名さん
      このケースの場合、かかりつけ薬局のはずです。というのも、この患者への処方を力価1mgに戻したら「前回10mgですが、1mgに減量で合っていますか?」という疑義照会がきたからです。どうして前回チェックされなかったのかは不明ですが……。

      疑義照会に怒鳴り散らす医師は、プロとしてだけでなく人としても最低ですね……。

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    2. 2回目の可能性も…
      とは言え,医者がいうことには逆らうな!という管理薬剤師や経営者がいることも事実です
      処方箋に書いてあることは全て正しい,という薬剤師に出会ったこともあります
      世の中には医師の訴訟リスクを高める薬局があるのも事実です…

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    3. >匿名さん
      あ、そうか、確かに。逆らうな、という上司がいるとやりづらいですねぇ……。薬剤師からの疑義照会で救われたこともありますから、委縮せずにガンガンやって欲しいところです。

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  3. ご自分のミスを明らかにする、又は出来ることに敬意を表します。
    私は医療のことはまったく素人なので、適切なことは申し上げられません。
    しかし、素人考えですが、調剤システム設定でミスは防げるのではないかと思いました。
    例えば過去の処方歴より何%以上の増減がある場合、調剤システムが疑義警告を出すとか。
    薬の種類によって、設定値は異なるでしょうが。
    そして、疑義警告が出た場合は、処方した医師の確認を「必須」とする、など。
    サポーター役として、マシーンやシステムをうまく利用していくのもひとつの方法では?

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    1. >海境惺さん
      確かに処方時や調剤時のコンピュータチェックは可能かもしれませんね。一部のシステムでは、それに類したわりと高度なチェック機能が入っていると聞きました。でも高額なのと、チェックが厳しいと煩雑すぎるという問題もあるのかもしれません。
      うちのシステムはチェック機能はほとんどありません。

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