2012年4月28日

緊張病性昏迷の治療

統合失調症の症状の一つに、緊張病性昏迷というものがある。まったく動かず、呼びかけにも応じない。しかし、自分の周りで何が起こっているかは理解している。緊張病性昏迷の症状を呈している患者の治療のために読んだこと(中安信夫先生の本だったかな)、考えたことを覚え書きする。

ハエを叩き損ねると、死んだように固まるハエがいる。やっつけたかなと安心して、ティッシュを探してつかもうとすると、ふっと動き出して逃げる。同様のことは、いろいろな昆虫や動物で観察される。生命の危険を感じて全機能を一時停止させることで、外敵の注意を一旦そらして、生存確率を上げるのだろう。

これを人間にも当てはめて考える。統合失調症の緊張病性昏迷は、彼らなりの生命危機に対して起きたものだと仮定する。(その危機が、患者以外の者には些細で無意味なものであったとしても)そうすると回復のためには、その危機が去ったことを感じてもらう必要がある。最初に書いてあるように、まったく動かず呼びかけにも応じないが、自分の周りで何が起こっているかは理解しているのだ。だから、ひたすら安心感を与え続ける。手を握る、さする、肩をもむ、そしてやわらかく語りかける。
「緊張を解いても大丈夫だよ、戻ってきても安全だよ」
というメッセージを、ただひたすら、反応がなくても虚しく感じることなく続ける。

時どき、昏迷状態の患者は外部刺激も受けていないと思い込んで、患者の目の前で軽口をたたく医師や看護師、家族らがいる。これは上記のことからすると、とんでもなく反治療的である。

7 件のコメント:

  1. 家族がまさしくこの状態になり入院しました。一体急にどうしたのか戸惑いましたが、こちらのブログ記事が、とても参考になりました!
    お見舞いにいったときには、このように優しく接してあげます。

    入院前、身体が全く動かないのに、私が頼んだことは、全力でやってくれました。どれほどの努力が必要だったのでしょう。真面目なのです。。

    電気けいれん療法?考えるだけで恐ろしいです!そんなもの受けさせたくないですね。

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  2. >匿名2012年11月22日 21:36さん
    大変でしたね、さぞ驚かれたことでしょう。昏迷状態の時は、決して気絶や失神とは違うので、こちらの言うことはほとんど全て聞かれています。これをつい忘れてしまう医療者が多いのは哀しいことです。温かい声かけで安心させてあげてください。

    ところで電気けいれん療法なのですが、現在では決して怖い治療法ではありません。というのも、過去には麻酔なしでビリビリって感じで苦痛を伴い、一部では罰として使用されていたという暗い過去がありますが、今は麻酔をかけて行ないますので実際にはけいれんはほとんどありません。昏迷は劇的に改善することが多いみたいです(実際に経験したことがないのではっきりとは断言できないのですが)。

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  3. 以前、こちらに投稿させて頂きましたものです。その後、昏迷状態は、入院して数日で、良くなりあっというまに普通に話もできるようになりました。今はすっかり良くなりましたが、どうして当時、話もできない状態になったの?と、聞くと、(本人の場合)声が聞こえてきて、話すな、口をきいてはだめだといわれたからと言いました。
    当時、知らない土地で孤独な一人暮らしでかなりストレスがあって精神不安定になったようです。
    ともあれ、人間、孤独が精神を追いつめる原因になるのだなという気がしました。行きていくのに、誰かとのつながりが欠かせませんね。この一連の出来事で、本人も、また、家族として、色々気付きがあり、学ばせてもらっています。

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  4. (続き)先生が、こちらで書いておられる、ひたすら安心感を与える、手を握る、肩を抱く、優しく語りかけるなど、本当に大事なことだと思います!!
    こういう状態になる人は、そういう優しさが欲しい気持ちを人一倍切望しているけれど、自分からは言えない、態度に表せず、自ら病気になってしまう人たちとも思えます。病人には、(また、人には、)周りからの優しさが本当に必要ですね。自分も、少しずつでも、周囲に優しさが与えられる人間になりたいです。。

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    1. >匿名2012年12月22日 13:44さん
      良かったですねぇ。うん、ほんと、よかった。

      海外に、言葉も分からないまま単身赴任した人って、独り言で精神のバランスを取るそうです。独り言を言えない人は、だんだん調子を崩すのだとか。それくらいに孤独が心に与えるものは大きいんですね。そして、統合失調症に関していえば、昏迷から覚めても周囲からは理解されにくい、いわば「孤独な病気」です。いかに彼らを「孤独の海」に放置しないか、というのが大切だなぁと感じる今日この頃です。

      嬉しいご報告、ありがとうございました。

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  5. ありがとうございます。そして、はい、確かにおっしゃるとおり、統失は、周囲からは理解されにくい孤独な病気ですね。いかに彼らを’孤独な海’に放置しないかということが大切、と書かれた先生のお言葉に、昏迷から回復して良かったと、ほっとしているだけでなく、今後の為に、気持ちを新たにしました!有り難いことです。

    人間がもつ心というものの不可思議さは、余りに奥深い。。。。

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    1. >匿名2012年12月23日 11:46さん
      こちらこそ、書いたことがうまく伝わって何らかの役に立てるという喜びを与えていただきました。ありがとうございます。

      世間が病気を理解するのには時間がかかるし、もしかしたらそんな日は来ないのかもしれませんが、少しでも知ってもらうというのは、このブログの目的の一つです。

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