「頭の中での思考は、言葉に出す50倍から80倍の速さで流れる」
と書いてあった。だから、言葉で表現しない考えは、そのあまりの速さに、本人が「考えている」ということさえ意識できないままに、頭の中を一瞬にして過ぎ去っていく。コーチングでは、クライアントに質問することで、流れ去る考えを言葉にさせて、本人がきちんと意識できるようにする。そして、これだけで色々な問題が解決に向かう。
こんな話がある。
テニスのコーチが、友人に代理コーチを依頼した。この友人、実はテニス初心者で、スキーのプロコーチだった。さて、その代理コーチのテニスレッスンはうまくいったのだろうか。ふたを開けてみると、実に評判が良かった。では、代理コーチはどのような指導をしたのかというと、実はほとんど指導していなかった(しようと思ってもできない)。ただ初診者として、プレイヤーに素直にたくさんの質問をしたのである。たとえば、「ミスショットするボールって、打つ前にどんなふうに回転しているのか教えてくれないかい?」と聞かれた生徒は、普段は意識せずにボールを打っていたが、質問に応えるためにボールをよく見るようになってミスが減った。コーチングが上手い人というのは、適切なアドバイスをたくさんする人ではなく、適切な質問で相手から考えを引き出すのが上手な人のことという一例である。
ところで精神科を考えてみると、多くの人が、
「精神科にかかれば適切なアドバイスがもらえる」
と思っているようだ。だが、上記したように、アドバイスするよりも質問して引き出すほうが非常に効果的なことが多い(そのかわり難しくもある)。ありきたりな助言や説教など、言われたほうの頭にはほとんど残らないものだ。「説教がそんなに効果的なら自分に説教しろよ」と、これは学生時代に愛読したコーチングの本に書いてあったセリフである。アドバイスするよりは、質問する。こうすることで、患者の頭の中を高速で通り過ぎてしまっている「考えや感情のもと」を意識の網に引っ掛けて、問題解決に近づける。逆に、いくら質問しても、こちらに答えだけを求めて「先生はどう思いますか?」といった質問を繰り返すような人はなかなか改善しないのではなかろうか。
学生時代に感銘を受けたコーチングの本を紹介しておく。この文章を書きながら、改めて読みなおそうかなと思った。名著である。
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