2012年9月21日

徹底追及 「言葉狩り」と差別

徹底追及 「言葉狩り」と差別

良い本なのに絶版で中古しかない。出版が1994年だから仕方がないか。

この本で出てきた大阪の堺市、今はどんな感じなんだろう。当時のエキセントリックさを示す部分を引用する。
大阪の堺市は、言葉に関してすこぶる敏感な町として、関係者の間ではつとに有名である。
「婦人会館や教育委員会では、『奥さん』や『ご主人』という言葉はご法度なんです。たちまち女性差別という批判を受けますからね。『妻さん』『夫さん』というおかしな言葉で呼びあっています。」(堺市職員組合幹部)
ある保育所では、「鯉のぼりで雄が上になっているのは、女性差別につながる」と、棹を横にしてタテに吊るしているというし、節分の豆まきで「鬼にも人権がある」という奇妙な理屈をつけて、「鬼は外」をやめたり、「ひな祭り」まで、女性差別としてやめてしまった……。
堺市水道局のPRビデオ撮影の際、出演の浜村淳が「ご主人は……」と発言したことが問題にされ、撮り直しになったこともある。
異常すぎる……。この堺市の当時の山口彩子市議が委員長を務めていた「童話・絵本研究会」も、これはもうキチガイ沙汰としか言いようがない。この研究会では、180点の童話・絵本に問題があったと発表している。
『白雪姫』 肌が白く、目はパッチリ、まつ毛が長い主人公を「美人」と定義しているが、これは白人を優位視し、黒人差別につながる。また子どもに画一的美の基準を押しつけている。
『みにくいアヒルの子』 外見が醜い間はいじめられ、それに耐えて最後は美しい白鳥になったというストーリーは、「美こそ善という誤った観念」がある。ひたすら我慢を強調し、子どもに短絡的ものの見方を植えつける。
『浦島太郎』 長男でありながら、親を捨て竜宮城で遊んだために白髪の老人になったという筋書きは、「家父長意識」のあらわれである。
『こぶとりじいさん』 良いおじいさんはコブがとで、悪いおじいさんはコブがさらにくっつくという筋書きは、生まれつきの身体的特徴で人間の善悪を判断する偏見を生みかねず、障害者差別につながる問題を含んでいる。
『ごんぎつね』 「家内」「おはぐろ」など、女性蔑視の表現がある。
『王子と乞食』 階級とか貧富、障害者をめぐる差別表現が目立つ。
もはやヤクザのイチャモンレベルだが、これを大真面目に、正義心から訴えているところあたりが不気味ですらある。

『四つ』という言葉に差別的な意味があることを知っている人は、現代ではかなり少ないと思う。俺もつい最近まで知らなかった。被差別部落民への侮蔑語として使われてきたそうだ。この『四つ』をめぐって、いろいろとバカげたことに気をまわしていた時代がある。
大阪の教科書出版社の小学校の算数の教科書で、数を表す「4つ」が、72年からすべて「4こ」に書き換えられた。結局、74年度の改定から算数や理科の教科書では事実上、「4つ」という表現はなくなった。
こうした事例は教科書業界にとどまらない。テレビ朝日では「四ツ辻」→「十字路」となっている。
「ヨッ! お疲れさん」という大正製薬の「リポビタンD」の広告コピーをご記憶の方も多いだろう。74年、被差別部落「関係者」の抗議により、「ヨォ! お疲れさん」、さらに翌年、「ヨォ! やるじゃない」と変わっている。
また、大相撲の「がっぷり四つ」「左四つ」なども、一時は相当神経を尖らせて使用した時期があった。
教科書業界は一番ナーバスで“四”を強調するデザインは避ける。文章も基本的に“四”を使ったものは、他の数字に変えられれば変える。また、イラストなどで『指が五本見えない』『耳が片一方見えない』という場合、必ずイラストは描き直しになる、といったアンケート回答もあり、いずれも常軌を逸した気の回しようだ。

他にも新聞では、「二人三脚」はダメで「二人で力を合わせる」に、「盲従」もダメで「絶対的服従」に変えなさいと自社内での自主規制をするなど、差別の本質とズレまくったところでマスコミが必死になっていた話なども書いてある。

この本の出版から20年が経った今、差別や言葉狩りの現状はどうなっているのだろう。ネット上で誰かが「女中」「外人」と発言したら、その文章の意図に関係なく「差別語だ!」という指摘が入っているのを見たことがある。そう考えると、言葉狩りに関してはあんまり変わっていないように感じるなぁ……。

<関連>
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2 件のコメント:

  1. ししとう432012年9月22日 17:38

    この件は、メディアの方が弱腰と言うか、事なかれ主義に陥り過ぎていたなあ。
    それでもって、自主規制ということに。
    なぜなら、ヘタに揉めると、たいてい話が堂々巡りとなり、長引いて、時間とエネルギーと金の無駄になるから。
    イジメの問題での報道で、学校側がどうあがいても、窮地に陥るのと構造が似ている気がします。

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    1. >ししとう43さん
      マスコミの自主規制が行き過ぎているのは確かにそうですよね。同和団体の人たちでさえ苦笑してしまうような規制の数々。事なかれ主義の行きつく先に、差別をしっかりと見据える世界はないと思います。

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