2013年10月7日

神は沈黙せず ~山本弘の欺瞞~


話のメインストーリーは面白かった。ただ、知識をひたすら羅列するだけの場面が多すぎる。これは山本弘の他の数冊の本でも言えることで、彼のクセなのかもしれない。

それは良いとして、どうしても気になった部分がある。著者の山本は、
「根拠がない噂を信じる人たち」
について本の中で繰り返し批難し、自身のブログでも何度となく批判的に論じている(参照 韓国系デマ「日本の強姦犯のほとんどは朝鮮人」?)。その主張はすごく筋が通っていて分かりやすい。それなのに、ああ、それなのに、である。主人公と親友の葉月(根拠のない噂など信じない、かなり聡明で若い医師として描かれている)が語り合う場面に、

『病院では表に出ない医療事故が頻発しているが、カルテ改ざんは当たり前。それに医師も看護師も罪悪感を感じていない』

といったような文章が出てくる。おいおい……、それこそまさに根拠のない噂じゃないのかよ……。どうしても我慢できず、山本弘にメールした。
現在、山本さんの『神は沈黙せず』を読み進めているところです。非常に面白く、楽しませてもらっています。
が、しかし、どうしても突っ込んでおかなければいけないところがありましたので、メッセージいたします。
主人公と葉月が「自分たちは不器用でも良いよね」と会話するシーンで、『頻発しているのに表に出ない医療事故』やカルテ改竄が日常的だとの記述があります。
どうして山本さんともあろう人が、こういう記述をしてしまったのかが疑問です。なぜなら、この本でも何度となく取り上げられている「根拠のない陰謀論」「イメージ先行の情報」と同じで、病院は事故を頻繁に起こしながら隠している、カルテ改竄が日常的だというのは、何ら証拠もデータもないものだからです。
私は医師です。三つの病院で勤務してきましたし、学生の頃から実習で病院内部は見てきています。断言できますが、カルテ改竄が日常的だという事実はありません。ただ、これも、
「お前の勤務した3つの病院で不正がなかったからといって、それが少数派でないとどうして言いきれる?」
と問われると答えに窮します。
それでも、「病院ではミスが多発しカルテ改竄は日常的で、医師も看護師も罪の意識は抱いていない」というのは、「外国人犯罪が増加している」「在日韓国人のレイプが多発している」というのと同じレベルではないかと感じるのです。確かにそういう病院もあるのかもしれません。そういう医師や看護師もいるでしょう、きっと。ただ全国すべての病院・医師・看護師からしたら、ごく一部、それこそすべての犯罪者数の中の韓国人の数と同じくらいに一部だと思います。
医療従事者は、高レベルの医療を維持するために日夜努力しています。表に出てくる噂やマスコミが取り上げる情報からはそうは見えなくても……。
読んでいて、少し残念な気持ちになりましたので、こうして指摘することにしました。
確かに、文脈の捉え方によっては、
「この葉月が勤務する病院がそういう体質なのだ」
という意味だと言うこともできる。しかし、このあとに続けて葉月は、
「どこに行っても多かれ少なかれ似たようなものだから、そういう裏を内部告発でもしようものなら、医師として働く場所がなくなる」
と言っている。いや、著者の山本が言わせているのだ。

断言するが、そんな事実はない。
医師の世界はそんなに狭くない。ある病院で内部告発をしたからといって、働き口がなくなるなんてこともない。だから、山本はこれを山本自身が抱く病院に関するイメージだけで書いているということだ。これは山本のブログや本を読んだことがある人なら、いかに普段の本人の主張と矛盾しているかがよく分かると思う。

このメールを出したのが平成25年8月25日。返事は意外に早く、翌々日の27日に届いた。個人的なやり取りなので、丸写しの引用は控えたいが、概ね以下のような内容であった。
それは誤解で、すべての病院でカルテ改竄や医療ミスが頻発しているとは思っていません。葉月が勤める病院は、不祥事が頻発している悪徳病院だという前提です。実際、過去には医療ミスを隠蔽あるいは医療費を不当請求するため、病院がカルテ改竄をやっていた例はいくつもあります。グーグルで「カルテ改竄」検索すると、以下の事例がありました。

http://jlop5bjlop5b.blog.so-net.ne.jp/2010-04-20
http://plaza.rakuten.co.jp/genkoku/diary/200611130000/
http://homepage3.nifty.com/ynb/docs/ehr.html

仮に小説中に悪徳警官を出したとしても、すべての警官が腐敗していることにはなりません。だから悪徳病院を作中に出すことは、小説の設定としては間違っていません。
納得しかける答えではあったが、これはただの詭弁ではないか。
葉月は告発できます。できるはずなのです。葉月のセリフを引用しつつ訂正するなら、
「そんなことしたら、将来、閉ざされちゃ」いません。
「他の病院だって似たようなことやって」ません。
「あたしみたいな厄介者をほいほい採用」してくれます。
これも、あくまでも葉月の考えとして言ったことではありますが、本当の医師の発言として、こんなことを言うことはほぼありえません。というのも、医療界はそんなに狭い世界ではないからです。内部告発程度で将来が閉ざされることはありませんし、腐敗した病院に勤務しているからといって、
「他も似たようなことやっている」
と思うなんてことは考えにくいし、この人手不足の日本の医療界では、例え人格に問題があるような医師でも引く手数多というのが現実です。ただ、葉月が、
「東京都内で働くことができなくなること」
を「将来閉ざされる」と考えているとしたら、それはあり得ます。都内であれば、都内の大学病院から各病院に通達みたいなものが言い渡されるかもしれません。そういう意味では、医療界は「狭い世界」でもあります。
ただ、そうなると、へき地で勤務している私としては、葉月(小説中では噂に流されない、かなり聡明な人物として描かれている)の医師としてのあり方・考え方に疑問符を付けざるをえませんが……。
このメールを出してから1ヶ月以上がたったが、返事はない。

小説の中の人物が言うセリフにどこまで作者が責任を持つべきか、ちょっと難しいところではある。ただ、これを小説の中の葉月という人物だけの責任にしてしまって、言わせた張本人である山本弘が知らん顔というのでは、彼のブログなどでのこれまでの発言からすればまったくもってフェアではない。

韓国系デマ「日本の強姦犯のほとんどは朝鮮人」?に書かれたようなデマを、小説中で偏見のない聡明な人物として設定したキャラに言わせておいて、作者が「それはあくまでも登場人物の考えですから」という言い逃れをした時、山本弘は何も突っ込まずにおれるだろうか。すごく真っ当なことを言う人なだけに、言い訳めいた答えで終わってしまったのは残念である。

版を重ねる時に、書き直すくらいの真摯さを持っていてくれたら嬉しいのだが……。

4 件のコメント:

  1. 私も読みました。本の内容は斬新なものではないですし、物語性は今一つですが、こういう作品は一度は読んでおいて損はないですよね。私的には85点です。

    著者へのメールは私も同じように考えていたので、よくぞ言ってくれたと感謝してます。著者が今後気を付けてくれることを期待してます。

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    1. >みゅうさん
      85点とは、結構いいですね~。とはいえ俺は90点をつけたいくらいですが(笑) ただ今回ツッコミを入れた部分を抜いても、とにかく記録の羅列が多すぎて……。山本弘の本では時どきこういうのがあるんですよねぇ^_^;

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  2. はじめまして
    山本さんの作品、Aiの物語、は傑作ですよ。
    神は沈黙せず、がおもしろい、というなら楽しめるはずです。

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    1. >匿名2014年11月4日 21:45さん
      山本弘の作品は、実は『アイの物語』から入ったのです(笑)
      というより、たまたま見つけたブログが面白くて、その人が作家だと知り『アイの物語』を買ってみて、それがさらに面白かったので他の作品も、という形でここまできたのでした。

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