2017年8月18日

プライマリな呼吸器内科医の診断アプローチを学びつつ、良質な医療ノンフィクションとしても楽しめるオススメ本 『私は咳をこう診てきた』


スゴい本だ。

非専門、というより、内科に詳しくない精神科医が読んでもよく分かる。

難解になりがちな深い専門領域に踏み込まず、治療についても薬剤名を記すことなく、ひたすら「診」ることに絞り込み、ケースレポートという形式で、診察から診断までの思考の流れやアプローチが語られる。「咳」を「診」ることに特化しているので、ほぼすべての症例において同じ手順、同じ思考の流れが繰り返される。にもかかわらず読んでいて飽きないのは、それぞれの患者の生活・社会背景がしっかりと描写されているからだ。また、これによって、本書が良質の医療ノンフィクションにもなっている。

咳診療における具体的な治療については記載がない。専門書のように細かい鑑別診断が網羅されているわけでもない。これは決して辞書のように用いる本ではない。本書の価値は、非専門家が通読でき、勉強になり、啓発されるところにある。

精神科の外来患者には、「見知らぬ他者との関わりを強く拒絶する人たち」が少なくない。そういう人たちが「頭が痛い」「めまいがする」「咳が出る」「皮膚にできものが」というとき、内科や皮膚科の受診を勧めても「いや、いいです……」「めんどう……」と拒否されることが多い。精神科も内科も皮膚科も同じ建物の中にある総合病院でさえこうだ。精神科クリニックや精神科病院なら、なおさらこの傾向が強いだろう。そうして放置され、後日になって「あのとき、ちゃんとチェックしておけば良かった」という結果にはしたくない。

そういうわけで、精神科医「なのに」ではなく、むしろ精神科医「だから」こそ、定期的にこういう本を読むようにしている。

値段も手ごろで、非専門家には超絶オススメな本。

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