2018年2月28日

とても残酷な動物実験の話をしよう 『選択の科学』

とても残酷な動物実験の話をしよう。

数十匹のラットを一匹ずつガラス瓶に入れ、それを水で満たす。瓶の内側はなめらかで登れず、ラットは泳がなければならない。泳がず浮かんでいるだけのラットがいたら、上から水を噴射して水面下に沈める。こうしてエサも休息も逃げるチャンスもない中で、ラットが溺れ死ぬまでどれくらいの時間がかかるかを測った。その結果、平均60時間も泳いでから溺れるラットと、15分程度であっさり諦めるラットにハッキリと分かれた。

むごい実験はさらに続く。

次は、ラットをすぐに瓶に投げ入れることはせず、つかまえては逃がすことを繰り返した。また、瓶の中で水噴射を浴びせた後で救出するということも数回にわたって行なった。そして最後は、最初の実験と同じように瓶で水責めにされた。すると、今度はすぐにあきらめるラットは一匹もおらず、全ラットが力尽きるまでの平均は60時間を超えたのだ。

二番目の実験でのラットは、実際には人間から仕組まれていたとはいえ、「自分自身の力で苦境から脱する」ということを繰り返し体験した。この「成功体験」の積み重ねが、ラットに粘り強さを与えたのだ。

この実験は1957年、ジョンズ・ホプキンス大学医学部の精神生物学者カート・リクターによって行なわれた。今ならとうてい許可されないであろう非倫理的な実験であるが、強いインパクトで我々に何かを語りかける。


精神科臨床をやるうえでも、非常に示唆に富んだ、ヒント満載の一冊だった。

4 件のコメント:

  1. 精神科治療のヒントになたっと言うことは、
    患者さんは15分で諦めるラットに相当するから、診療の時に患者さんに対しては健常者と同じ程度の課題を課すとすぐにあきらめてしまうので、もう少しハードルを下げて、時々休息を取らせるといい
    ということでしょうか?
    『働かないアリに意義がある』という本も、社会のなかにはいろんなタイプの人がいるということを教えてくれる良書ですよ。
    これからもブログ楽しみにしてます!

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    1. >匿名2014年9月21日 19:41さん
      そう具体的に何か活用できそうというわけでもないのですが、ただ、「毎日の成功体験」に気づかせるような促し、あるいは「毎日の成功体験」が得られるような目標立てなどに使えるんじゃないかなと思います。
      「前回から今回までで、朝起きれたのは何回ですか? おぉ、そんなにたくさん自分で起きられたのなら凄いですね」
      といった言葉かけなどです。

      お勧めの本、面白そうなので読んでみます!!

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  2. 選択の科学読みました!久々の良書です!
    まだ読破していませんが、自分で選択して良いパフォーマンスを行える人と、人が決めた指示に従う方が良いパフォーマンスを行える人と、それぞれの文化の違いなどの調査などが面白いです。
    昔の日本も結婚から職業から親や村単位で決められてという歴史の方が断然長かったと思うんですが、そんな中でも幸せに暮らしていた人も絶対数いただろうなぁ…という自分のぼんやりとした疑問をつねずね持っていたのですが、読んでみてなるほどなぁ~!!!と思わず膝を叩きました!

    まだ途中ですが、最後まで読み切るのが楽しみです。良書の紹介ありがとうございました!

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    1. >ゆうさん
      これはけっこう良い本ですよね。
      最近ラジオでもゆうさんと同じようなことを言っていました。「江戸時代のほうが幸せ感は高かった」みたいな。選択肢が増えるほうが幸福度が減ることもある、といった話でした。
      この本、文庫化されるかのかどうか……。良い本はどんどん文庫化して、多くの人に読んでもらいたいですね。

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