山男である魚津の朴訥とした雰囲気、その魚津に惚れる小坂かおるの純粋さ、魚津の上司である常盤の熱情や優しさ、富豪ながらエンジニアとしての一本気をもつ八代。そんな好感のもてる登場人物らのなかにあって、ただ一人フラフラと若い男に惹かれてしまう芯のない八代の妻・美那子に苛立ってしまう。
ところが、この美那子の存在が、物語全体にピリッとした緊張をもたらし、面白さを引き立てるのだから不思議だ。表向きの主人公は山男の魚津であるが、井上靖が描きたかった本当の主役は、人間としての未熟さを抱えて生きる美那子だったのかもしれない。
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