2015年3月16日

ふがいない僕は空を見た


世の中にある面白い本の数と、自分の残りの人生の時間が釣り合っていない、どうしたって足りない気がする。そんなことを改めて感じさせられた一冊。

少し独特の長短織り交ぜた文体が、わざとらしさもなく、リズム感よく並び、ふと気づくと作者の描く世界に引き込まれている。R-18文学賞を受賞している本書は、女性が読むとなお面白いのかもしれないが、男が読んでも時どき下半身が疼くような描写があり、ついつい周りを気にしてしまった。

Amazonの購入履歴を見ると、平成25年4月に買っていた。2年近く待機させちまったか……。同じ作者の本を何冊か買ってみる予定。

2015年3月9日

ぼんくら


江戸を舞台に、ぼんくらだけど人情味と人間味のある同心・平四郎が、面倒くさいなぁ、関わりたくないなぁなどと思いながらも、捨て置けずに活躍(?)する物語。素晴らしいと思ったのは、すべてがスッキリ解決というわけではなく、どこかモヤッとしたものが残ってしまうところで、それを主人公の平四郎は、まぁそういうこともあるわな、と呑み込んでしまう。現実ってきっとこうだよなぁ、なんて、そんなことを思わされた。

2015年3月5日

コフィン・ダンサー


職務中の事故によって首から下が麻痺した天才的な科学捜査官リンカーン・ライムが主人公の犯罪ミステリ。前作は映画化され、そして映画は面白くなかった(主人公をデンゼル・ワシントンが演じたこと以外、内容のほとんどを覚えていないほどだ)。

たまたまネット上で原作小説の評価が高いことを知り、好奇心にかられて読んだところツボにはまった。そこで2作目を買ってみたところ……、やっぱり面白い!! 今回はリンカーンと犯人による一騎討ちでの騙し合い……、そして、なんというドンデン返し!!

このシリーズはあと4作買っており、いま本棚で出番を待っているところである。

2015年3月3日

熱帯夜


ミステリ、社会風刺、ゾンビものの3つの中編からなる。こんな小説を書く人がいたのか、という感じ。またしても一人、お気に入り作家を発掘してしまった。同じ作家の評判の良い作品を何冊か読んでみることにする。

2015年3月2日

靄の中のバス停

数十メートル先を行くバスの後姿を見ながら、俺は思わず舌打ちした。今のバスを逃したら、次のバスまで二時間半以上待たなくちゃいけない。なんだってんだ、こんちくしょう、このド田舎バス停め。時刻表のポールを蹴っ飛ばすと、爪先が痛くて顔をしかめた。ため息をつきながらベンチに座った。見上げれば、きれいな青空にパンのような雲がいくつか浮かんでいて、春の終わりの日差しが気持ち良い。先ほどまでの苛立ちも少し治まり、小さくため息をついて伸びをした。少しぬるめの風が頬を撫でた。

はっと目が覚めると、動き出したばかりのバスの背中が見えた。追いかけようかと思ったが、バスはぐんぐんとスピードを上げて走り去っていく。あーもう。自分のバカさを呪いたくなる。時刻表によると、次のバスが来るまで四時間近くある。あまりの待ち時間の長さにうんざりする、と同時に腹が鳴った。腕時計を見ると、もう一時前だ。どこかでメシでもと思いあたりを見渡しても、それらしき建物なんてどこにもない。ベンチに座りなおしてどうしたものかと考えていると、見知らぬ中年女性が近づいてきた。
「どうかされました?」
「いや、お恥ずかしい話なんですが」
俺は女性に、うっかりバスに乗り遅れたこと、それから腹が減ったけれど近くに店がないことなどを話した。女性は優しげに、そうですか、と言って、石釜工房と書かれた紙袋からパンを二つ取り出した。
「よかったらどうぞ」
見知らぬ女性から食べ物をもらって良いものかどうか。俺はほんの少しだけ迷ったが、空腹には勝てなかった。女性は俺が食べ終えるのを見届けると、そそくさと帰っていってしまった。
焼きそばパンのタマネギが奥歯の間に挟まっている。舌をもぞもぞさせたり、指でつかんでみようとしたりしたがなかなか取れない。口をすぼめて吸引してみる。ダメだ、取れない。気持ち悪い。舌をまた動かす、指を入れる、吸引してみる、舌を……。

カクンと頭の落ちる感覚で目を覚ますと、バスがもうずっと先を走っていた。あぁ、行ってしまった。時刻表を見ると、どうやらこれが最終便のようだ。一日に三回もバスに乗り過ごすなんて……。ここで野宿はさすがに風邪ひきそうだし、なによりまたちょっと腹が減ってきている。困ったな……、と途方に暮れていると、学校帰りだろうか、制服を着た少年が声をかけてきた。
「どうしたの?」
いきなりの馴れ馴れしい言葉遣いに思わずムッとしかけたが、困っているのはこちらだし、それを助けようとしてくれているのだから、本当はきっと良い子なのだろう。
「いや、実はね」
俺はバスに三回も乗り遅れたことを正直に話し、しかも泊まる場所も食べるものもないのだということを説明した。すると少年は、
「じゃ、うちにおいでよ」
そう屈託なく笑って、すたすたと先を歩き始めた。少し戸惑いはしたが、ここで野宿するわけにもいかず、なにより空腹がどんどん増していく。背に腹はかえられない。俺は少年のあとについて行くことにした。

「ただいまぁ」
少年が元気よく声をあげる。
「お邪魔します」
俺はおずおずと家に上がった。畳敷きの居間にはちゃぶ台があり、その上には石釜工房と書かれた紙袋が置いてある。台所から出てきた女性が、エプロンで手を拭きながら、
「ささ、座って座って」
そう言って俺に座布団を勧め、湯飲みに茶を注いだ。俺は奥歯に挟まったタマネギを舌でもぞもぞしたり、指を入れてつかもうとしたり、吸引したりしながら考えた。なんか変だぞ。

「お母さん。おじいちゃん、今日もバス停で寝てたよ」
「うん、知ってる、お昼ご飯もいつものようにあげたから。今日はパンよ」
「お父さんの運転するバスに乗りたがるのって、何か意味があるのかな」
「どうだろうねぇ、それは本人のみぞ……、いや本人にも分かってないかも」
そう言って笑いあう二人を見ながら、俺はなんだか居心地の良いところだなぁと思うのだが、はて、どうしてこんなところにいるのだか。なにはともあれ、明日こそは早起きしてバス停に行こう。妙に手になじむ湯飲みを傾けて、俺はグイと飲み干した。

IMG_1057