2012年3月14日

認知症検査で気をつけるべきこと

長谷川式簡易知能評価スケールは簡単な質問を行なう認知症検査で、全問正解だと30点、20点以下が認知症疑いとなる。ただし、この検査の点数だけで認知症かどうかの判断はしない。意識レベルや集中力は、体の状態にも左右されるからだ。体調万全、うつのような集中力の欠如もなさそうだし、せん妄状態でもないのに点数が低い、というときに、初めて認知症を疑ってかかる。

ところで、この検査をきちんと実施できている人がどれくらいいるのか。検査方法が不適切だと、得られる情報の信憑性も低くなる。たとえば、患者に「100から順に7を引いてもらう」という項目がある。このときの質問は、まず、
「100から7を引いたらいくらになりますか?」
と問い、患者が「93」と正答したら、
「では、それから7を引いたらいくらになりますか?」
と聞かなければいけない。精神科志望の研修医でも、この部分で、
「93から7を引いたらいくらになりますか?」
と尋ねてしまうことがある。これだと、この検査の意味がまったく別物になってしまう。この質問のミソは「それから7を」である。これは単に患者さんの算数能力を試しているわけではない。脳で「93という数字を保持」しつつ、さらにそこから「7を引く」という、二つの作業を同時に行なうことができるかどうかが試されているのだ。

また、数字の逆唱という質問項目は、こちらが言う3桁の数字を逆から言ってもらう検査だ。同じく、研修医にやらせてみると、
「今から言う数字を逆から言ってください。ろくはちに」
と、これは文章では表現しにくいところではあるが、「682」の部分は、それぞれの数字をおよそ1秒間隔で言わなければいけない。文章で表現するとしたら、「ろくはちに」ではなく、「ろく。。。はち。。。に」という感じ。これでニュアンスは伝わるだろうか。脳の中に「数字の塊」を投げ入れるのと、一つ一つの数字を区切って入れるのとでは、その数字群を頭で再構成するときの難易度が違ってくるようだ。

学生時代に大学で習うだけでは、こんな細かいところまでは知らないままだ。そして、こういう正式なやり方は、医師になってからもあまり本には載っていない。出身大学の授業では、一応この程度のことは教えていたが、自分は精神科医なので、考案者である長谷川先生のDVDも観て確認した。「長谷川式なんて誰でもできるわい」なんて思わず、検査のちゃんとしたやり方を何かで確認して欲しい(十分くらいでマスターできる)。あるいは、「そんな検査、自分はしないよ。はい、心理士さーん!」というスタンスもあるかもしれない。間違った方法で不正確な情報を得るくらいなら、そんな検査はしない方がマシである。

4 件のコメント:

  1. 実は 義父が 2月に 自損事故(大したことない)をして 救急車で運ばれたら ショック状態が続いている中、と 若干のいままでの 糖尿病+うつ?系で心療内科に通っていため この長谷川式で 3点、取れず、 認知症を疑われ 大変でした。

    もともと 無口な性格+後期高齢者+事故 とあいまって
    整形外科よりも先に 精神病院を勧められて・・・

    救急車で運ばれた先の 緊急処置だったから しかたなかったんでしょうねえ。。。

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    1. >あじさいさん
      直接に診ていないのでなんとも言えませんが、その検査結果は俺なら信用しません。その点数の人は、車の運転はおそらくかなり危ないですので、ご家族もこれは変だぞと思うはずです。
      救急車で運ばれた先の処置室で行われた検査なんですかね? もしそうなら、これはもう検査した人のセンスを疑いますね。

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  2. 学生時代に、皮膚科のおもしろい先生が、患者のおばあさんに、
    「はいこれ、この紙に書いてある質問やっといてね。できたら看護師さんに渡しといて!」
    って鉛筆と長谷川式スコアの紙を渡している姿を見ました。その時はお気楽な検査だな。と思いましたが、このやり方も大概ですねw
    結局おばあさんは、部屋のみんなに協力してもらい、満点を取っていました。

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    1. >たにおか
      あの先生かなぁ。
      どう考えても、適当すぎてダメだよな。笑いとしては満点だけど、医師としては零点だと俺は思うね。皮膚科疾患の写真を何十枚かファイルしといて、「あなたの皮膚はどれですか? ○つけてください」なんて言って渡すようなもんんだな。

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