2012年11月17日

世界屠畜紀行

世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR
『飼い喰い――三匹の豚とわたし』で実際に豚を飼ってみて、それを殺して食べた著者。その著者が豚を飼う前に書いている本。文章は、「殺」という文字が嫌だということで、「屠殺」ではなく「屠畜」という言葉で統一されている。

この手の本を買ったキッカケは、『ブタがいた教室』という映画を観たことだ。あの映画そのものはともかくとして、あの映画のもとになった教師の指導方法も考え方も、俺の感性とはまったく合わない。

一般に医療者や教師を含めた「対人援助職」は、「取り返しのつくこと」から手をつけるべきである。食育ということで考えるなら、まずは屠畜の様子を文章や言葉で、それでも伝わらなければ写真や映像で、そして最後に実地見学でと段階を踏むべきである。いきなり豚を飼わせて、名前をつけてペットのように育てて、最後は殺して食べましょうなどという極端な方法は、子どもたちに取り返しのつかない傷を与えかねず、とてもじゃないけれどまともな対人援助方法とは言えない。

本書では、実際に食育をしている小長谷有紀さんという人の指導方法に触れてある。小学2年生を対象としたボランティアで、モンゴルで動物を捌くときの写真を見せる。それも意図的に血がだらだらと垂れているものを。子どもたちはたいてい「わぁ……」となるのだが、そのときに、
「ちょっと待って、みんなの中で今まで肉を食べたことがない人は?」
と聞く。自分たちが生きるということは、他の生き物が血を流しているのだということを教えるのだ。そして、
「これからいただきますと言うときに、そのことを忘れないでね」
と付け加える。こうした教育方法こそ、まず真っ先に取り入れるべきだと思うのだが、なぜか実際に動物を飼育して食べるという極端な方法に魅力を感じた小中学校もいくつかあったようで、類似の「児童実験」が何校かで行なわれている。

本書は、動物を殺して食べるとはどういうことか、というテーマと並行して、屠畜業に携わる人たちへの差別を大きなテーマとして取り扱っている。よく見ると、文庫化前の単行本は「解放出版社」から出ている。俺は部落差別とは無縁で育って、部落差別意識はまったくない。また、肉屋の従弟がいるためか、世間で食肉業者に対する差別感覚があることも本書で知ったくらいに、まったくなにも思ったことがない。

いろいろなことが知れて良い本だと思う。ぜひご一読を。

<参考>
飼い喰い――三匹の豚とわたし
徹底追及 「言葉狩り」と差別
ちびくろサンボよすこやかによみがえれ
カニは横に歩く 自立障害者たちの半世紀
放送禁止歌
差別用語って何だ!?
被差別部落の青春

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