自分や家族の病名をググったことはないだろうか。医学部でやる「病気の勉強」はこれに近い。A病にはaという症状があり、B病にはbという症状がある、といったことを覚えるのだ。
病名ではなく、「腹痛、発疹」「頭痛、目まい、右に傾く」など、気になる症状を並べてググり、出てきた病気から当てはまりそうなものに目を通す。これも経験ある人は多いだろう。臨床医が診察しながらやっていることはもう少し複雑だが、おおむねこれに近い。
本書では前者と後者をつなぐ「症状」に着目し、その症状が「なぜ起こるか」を解説し、そこから病気を「探る」ことを目指している。より正確に言えば、「探る姿勢」を身につけることを目標にしている。決して病気を「教える」「知る」を目的とはしていない。
本書のメインテーマである症状の説明は非常に「わかりやすい」。ただ、医学部で基礎から学んだ臨床医の端くれとしては、特に目新しいことはなかった。もともと看護「学生」を対象としたものなので、当然と言えば当然である。
素晴らしいのは、ヤンデル先生の臨床(?)哲学だ。ヤンデル先生は病理医だが、
「あれ? ヤンデル先生って臨床医でもあるんだっけ?」
そんな錯覚すら抱くほどに「臨床で大切な感性」が繰り返し語られている。常日ごろから「言葉にすることが大切」と思っているだけに、ヤンデル先生の「わかりやすい」言語化には頭が下がる。
たとえばこんな感じ。
患者さんは、虫垂炎という病気ですよと「診断される」ために病院に来ているわけではない、ということです。患者さんは、自分の痛みを取ってほしい、苦しさから解放してほしいと思って、病院に来ているのですから。
痛みに苦しむ患者さんが一番最初に受けるべき治療は、医療者が患者の苦しみおしっかり受け止めるぞ、という姿勢を見せることです。
患者さん自身の診断を、素人考えだといって却下してしまってよいのか。そうではありませんよね。
患者さん自身がどう思っているのか、どいうのは、多くのヒントを含んでいる、とても大切な情報なのでしたね。
患者さんが最初に口にする、「気になること、自分の痛みを自分で解釈してしゃべること」にはある程度の真実が必ず含まれています。ですから、まずは傾聴することです。(中略)症状や徴候について。
傾聴してから、聞き出す。非常に大切です。繰り返しになりますが、最初から質問攻めにしてはいけません。
これらはいずれも診断の一助となります。ただ、診断を決めるためだけでなく、患者さんをくまなく、優しく支える目線の一環としてアセスメントを進めることが大切です。
症状というのはそのまま「患者さんのつらさ」である。多忙な診療や看護でついつい置き去りにされてしまう大切なことを、こうやって改めて確認することは、自らの診療・看護の鮮度を保つうえでとても意義のあることだろう。そういう意味で、すでに症状の病態について充分に理解しているベテラン医療者でも、一読の価値がある本だと言える。
ちなみに、ヤンデル先生はツイッターでの情報発信もされている(情報以外のことが多いが)。
ヤンデル先生のツイッターアカウントはこちら @Dr_yandel
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