2018年1月26日

治療のパラメータについて。それから、長期で勤務することについて。

薬を、始める、増やす、減らす、やめる。こういうときは、なるべく一種類に留めるべきだ。複数の薬を同時に変動させると、効果にしろ副作用にしろ、得られた結果がどの薬によるものなのか分からなくなるからだ。

これを「動かすパラメータは、なるべく少なくする」と言い換えてみる。そして、薬だけでなく、治療全体にあてはめて考えてみよう。

入院患者を例にする。

患者は一人で入院生活をしているわけではない。集団で療養生活を送っており、医療者も知らないような人間関係がある。この個々人をパラメータと考える。複数の患者で同時に治療方針を変更した場合、それぞれの症状の変化が互いに影響しあうことが予想される。最終的には病棟全体の雰囲気にも影響を与えるだろうが、ふり返ってみても、誰のどの変化が原因なのか分かりにくい。

さらに拡げて考える。

スタッフや医師も治療のパラメータだ。そして、異動や定年退職は、パラメータの大きな変化である。異動時期に治療方針の大きな変更をかぶせると、患者の変化が「主治医の変更によるもの」なのか「薬の変更によるもの」なのか、そういう結果のフィードバックが困難になってしまう。

こういうわけで、異動時期の前には治療の大きな変更をしにくい。となると、医師が1、2年で異動してしまうような病院では、全体的として治療の変更に手を出しにくい状況が続くことになる。へき地病院で、月1、2回の出張診療を医師が入れ代わり立ち代わりでやっている精神科だとなおさらで、ずいぶん昔の初診医師のトンデモ治療が延々と変更されずに踏襲されていることがある。これが、決まった医師が行く場合には、たとえ月1回でも若干の修正が可能となる。

これとは逆に、赴任した医師が長く留まると分かっている場合は、診断見直しも含めた治療方針の変更に、じっくり腰を据えて取り組むチャンスである。一ヶ所に長く勤める医師が「名医っぽく見える」のは、このチャンスのおかげだろう。

多くの場合、医師も患者も、任期がどれくらいになるかは知りようがない。幸いにして、自分は赴任時点で長居することが分かっていたので、チャンスをたくさん与えてもらった。そして、退職が間近となり、治療方針の変更には臆病になってしまった。もはや「長くみる」という魔法の杖は使えなくなったわけで、この杖を次の医師らにうまく引き継ぐのが最後の仕事になる。

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