2018年7月30日

“矛盾との折り合いのつけ方にこそ、その人の個性が発揮される。” 精神療法や心理治療のヒントがいっぱい! 『生きるとは、自分の物語をつくること』

超有名な心理療法家・河合隼雄と『博士の愛した数式』の著者・小川洋子との2回にわたる対談をまとめたもの。

河合隼雄に対しては反発を抱く人もいるようだが、こういう心理関係の軽い本は、正解集ではなくヒント集くらいの感覚で読むのが良い。そもそも心理の世界で「完全な正解」というのはないのだろうし。

さて、ヒントになるような話を抜粋しながら紹介する。
河合 距離のとり方って、人によって違うんです。例えば自閉的な子供さんだったら、時々あるんですが、話してると急に「2+3=8」とか言うてくるんです。そういう時に「うん、そうやね」言うてしまったら、ものすごい機嫌悪くなるんです。
つまり、それはこっちが真剣に聞いてないということでしょう。「そうや」言うのは、何でもええからそう言うてるわけですからね。だから、パッと「5や」て言うんです。「答えは5よ」て。そこでパッと塀ができて、それでその子は「あ、僕は僕で、こいつはこいつ」と境界ができるんですよ。

小川 そのほうが安心なんですね、その子にとっては。
(※河合の語りを小川が聴いているところで、小川の質問や合いの手は省略している)
「2+3=8」なんて、そんなこと本当に急に言ってくる子がいるのかな、という疑問はあるものの、この話から得られるヒントは確かにある。実話にしろ創作にしろ、そういうヒントになるエピソードを出せるところが河合隼雄のすごさである。

小川洋子の以下の語りには深く頷かされた。
人は、生きていくうえで難しい現実をどうやって受け入れていくかということに直面した時に、それをありのままの形では到底受け入れがたいので、自分の心の形に合うように、その人なりに現実を物語化して記憶にしていくという作業を、必ずやっていると思うんです。(中略)
臨床心理のお仕事は、自分なりの物語を作れない人を、作れるように手助けすることだというふうに私は思っています。
これに続いて、物語と「患者を了解すること」について。
小川 質問する側が納得したくて、何か言ってしまう。

河合 そう、質問する側が勝手に物語を作ってしまうんです。下手な人ほどそうです。「三日前から学校行ってません」て言うと、「三日か。少しだね。頑張れば行けるね」とか。これから百年休むつもりかもわからないのにね(笑)

小川 「もう少し頑張れば行ける」という、こっちの望む物語を言ってしまうわけですね。

河合 人間というのは物事を了解できると安定するんです。(中略)了解不能のことというのは、人間を不安にするんです。そういう時下手な人ほど、自分が早く了解して安心したいんです。相手を置き去りにして、了解するんです。 
最後に、小川洋子の作家らしい名言を引用しておく。
矛盾との折り合いのつけ方にこそ、その人の個性が発揮される。
分量の少ない本で、あっという間に読み終える。Kindleでは389円。分量と釣り合った良い本。

1 件のコメント:

  1. 自閉症児の質問に相槌として同意せず「違うよ」と線を引くこと…は大切ですね。自他境界線が難しいのも特性の一つですので、線を引きつつ付き合うことの大切さがギュッと!少ない言葉に出てていいですね。

    自分の物語を紡ぐ、生きるというのは「自分の答えを出す」ということなのでしょうけれど、
    心理の世界には「完全な正解」はなくていいということも救いになりますね。

    いちはさんがツイッターをやめてしまわれたので、こちらにオススメしたい本を1冊。
    https://www.amazon.co.jp/淋しいのはアンタだけじゃない-1-ビッグコミックス-吉本-浩二/dp/4091876099

    聴覚障がいの方にフォーカスした漫画です。
    「聞こえない」とはどういうことか?と、
    症状としての「耳鳴り」などの【他者には聞こえなけれど、本人には聞こえている】という、
    状態について切り込んでいます。
    脳の神経の誤作動で起こる耳鳴り…という症状ということで、
    精神疾患が先か?難聴が先か?という脳機能・精神疾患についても当事者の苦しみなどが、
    リアルに伝わる漫画です。

    ぜひぜひ!オススメの一冊です。

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