2011年12月10日

日本人と飲酒 内柴問題を題材として

内柴の準強姦容疑に伴う世間の反応から浮き彫りになったのが、日本人の飲酒に対する認識だ。自分自身で世界各国を旅したわけではないので、あくまでも書物を通じての伝聞であるが、日本人ほど酒や泥酔者に対して寛容な国というのはないらしい。酔いつぶれて路上で寝る、ということがさして珍しくはない。かくいう俺も、何回かは路上や駅のベンチで寝たことがある。飲酒は、国によっては禁じられており、またアメリカでも過去に禁酒法があったくらいだ。現在でも、アメリカは路上飲酒を禁止している州がほとんどのようだ。

ここで何度も書いてきたが、内柴問題の本質は飲酒酩酊時の同意が有効かどうかだ。そして、俺は無効だと考えているし、法律でも酩酊時の同意は無効だとされている。内柴には、もともとまったく興味がない。金メダルを二回とったことを知らなかったどころか、顔さえ知らなかったくらいだ。だから、個人的な好き嫌いで何度も取り上げているわけではない。この問題を通じて、日本では表に出ないところで頻発しているであろう準強姦について、われわれ日本人の意識を問い直すという意図があってのことだ。告発した女子学生には申し訳ないが、本件は酩酊時の準強姦を考えるには非常に良い題材なのだ。

飲酒に対して、日本人の感覚は非常に緩い。これは決して悪いことではないと思う。安心して酔いつぶれることができるのは、それだけ安全ということでもあるのだ。ただ、酩酊時のセックスに関しては、いささか緩すぎるところがあるのは否めない。たとえば大学の新歓コンパなどで、先輩から強引に酒を飲まされた経験は多くの人が身に覚えがあるだろう。一気飲みで死亡すればニュースになるが、女性が酔って意識朦朧とした状態で先輩とセックスという話は、たとえ彼女が後悔していたとしても、羞恥心や自己嫌悪から話題に上がることが少ない。男にしてみれば、軽い気持ちでの送りオオカミ、「やり得」という感覚かもしれないが、それが実は準強姦になるかもしれないという認識を持たないといけない。そして、その認識を広めるには、今がいいタイミングだと思う。

この飲酒酩酊というものへの感覚の緩さが、「酔っぱらった女性にだって責任がある」という論調を引き出しているのだと思う。未成年は別として、日本ではプライベートで飲酒酩酊する権利は誰にでもある。その結果、財布を落としたり、自転車で転んだりすれば、酩酊した自分に責任があるのは当然だ。しかし、酩酊して寝ているところで財布をすられた場合は、法的責任は明らかにスリにしかない。酔って寝ていたほうも甘い、という意見は出るかもしれないが、スリを擁護する意見は出しようがない。それがなぜか、セックスに関しては、本件のように容疑者擁護や被害者糾弾が入り混じる。実に不思議な現象だが、日本人のセックスに関する感覚も相当に緩いのかもしれない。

飲酒酩酊時の責任能力ということに関して、過去に殺人で無罪となった事件がある。精神鑑定で有名な秋元波留夫の論文にはこうある(『正常と異常 ―精神鑑定の経験から―』
次に殺人の例を挙げよう.酩酊して上司と妻にガソリンをかけて火を付け,上司に火傷を負わせ,妻を焼死させた工員の事例である.私の鑑定書に詳しく論述されているが,私はこの事件の前後の行動について,本人と目撃者の供述を詳しく検討して,この行為が病的酩酊の所産であり,是非の弁別,および是非の弁別に従って行動することのできない状態で行われたことを論証した.病的酩酊は飲酒の結果で自ら招いた精神障害,すなわち「原因において自由な行為」ではあるが,裁判長は私の鑑定を採用し,無罪を言い渡した.この工員はその後復職し,飲酒を慎み,平穏な生活を送っている.
病的酩酊での殺人を無罪とする法律および判決が倫理的に正しいのかどうかはさておいて、そういう判例が厳然としてあるということは、女子学生の酩酊を責める人は知っておいても良いだろう。加害者でさえ免責されるのである、いわんや被害者をやだ。

飲酒に対して緩い日本人ではあるが、一方で麻薬に対しては世界トップクラスの厳しさだ。これは、精神作用物質(酒、シンナー、麻薬など)への欲求のガス抜き場所として、酒だけを合法にし、かつ非常に緩く監視することで、他の麻薬などに向かいにくくしているという面がある。数字に上がってこないアルコール依存症、依存症予備軍は、俺も含めてかなりの数いるのではなかろうか。

まとまりに欠けた散文的なものになったが、本件とからめて飲酒について書いておきたかった。


<関連>
内柴正人の準強姦問題について
実は、内柴は女子学生に陥れられたのだ
内柴問題は、擁護派も糾弾派も、もっと落ち着け、冷静になれ
「一種の人権侵害 東京・石原慎太郎知事」 価値観の相違……なのか?

5 件のコメント:

  1. 同業者です。起訴前本鑑定で酩酊下のケースを何件か扱ったことがあります。

    >内柴問題の本質は飲酒酩酊時の同意が有効かどうか

    容疑者が酩酊下で心神喪失または耗弱状態であったならば(秋元氏のケース)、減刑となることはあるとは思いますが、被害者の酩酊状態の同意能力に関しては裁判で言及することが出来ても精神医学的にそれを証明することは不可能です。

    本件の場合被害者は未成年で飲酒テストをおこなうことはそもそも出来ないですし、それ以前に未成年が飲酒をした場合、そもそも同意能力は「ない」という前提の下に話を進めるべきだと思います。

    被害者の同意能力の問題を、過去の「容疑者の酩酊下での犯行における鑑定例」を持ち出して同列に扱うのは、論理の飛躍かな?と思い、「本質ではない」と思います。

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  2. >匿名さん
    ありがとうございます。

    今回、容疑者と被害者の違いがあるのに鑑定例を持ち出したのは、
    飲酒というものが単に「酔ったほうも悪い」という一言では済まされない、
    ということを示しておきたかったからです。
    この鑑定例をもってして、容疑者被害者を同列にして女性の同意能力云々に言及したかったわけではありません。
    (本件では同意に関しては無効というのが自分の考えです)

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  3. 昨夜壱岐ゴールドを2本空けていたらしく、酩酊した女です。。。

    お酒飲んでやっちまったぜ話は良く聞きますね。でも公の場では出ない。それは男の人は武勇伝的な感じで話し、女の人は色々です。受け止め方は人それぞれですが、何らかの形で心に傷が残ってしまっているような感じで話すことすらできなくなるからかなぁ。と思います。

    酩酊状態じゃなくても酔ったら判断力は鈍くなっちゃうんで、お酒に任せて…は良くないですね(^_^;)

    自分も酩酊状態、アルコール依存症には気をつけなきゃなぁー。

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  4. >あっこ
    俺も以前はゴールド一本までならオッケーだったんだけどなぁ……。

    酩酊時の男女関係は全ての事例で男の側の犯罪だ、
    とはまったく思っていないんだよね。
    そりゃ一緒に楽しく飲んで、お互いに良い雰囲気になって、
    ということはあるだろうし、ていうか、それ普通だし。
    でも強姦は親告罪だから、相手がどう感じたかが重要になる。
    だから、確かに女性が一方的にイチャモンつけるということも、考えられないことはない。
    だからこそ、もともとのお互いの関係がしっかりしているかどうかが大事だし、
    どんなに良い関係の相手でも、男の側は用心するに越したことはない。

    「自らすすんで飲んで良い気分になって、良い雰囲気になって、
    酔ってしちゃったけど、決して嫌な思い出ではない」
    という場合に告発されることはまずないだろうし。

    あっこは、アルコール依存には気をつけたほうがいいぞ!!
    強い人ほど依存になりやすいみたいだから。

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  5. それは自分も思ってないです(^_^)

    楽しくお酒のんで、いい雰囲気で、あらあら♥みたいなのアリだと思います!個人的には。
    ただ傷が残る感じの子の話を聞くとその後の男の対応?においおい(。-_-。)って思っちゃうんですよねー。飲むイメージがあるらしく、女の子からそういう相談を受ける事が多々あるんですけど、先輩もご存知だと思いますが…あらあら♥みたいな事態になる傾向は皆無なので力になってあげられないんですよね…

    こんなに飲んでるのに何であらあら♥状態にならないんだろう…(笑)とにかくアル中には気をつけます。なったら先輩が主治医でお願いしますね。

    というか、先輩も気をつけてください!

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