2015年9月28日

責任能力とはなんぞや……? やっぱり難しい…… 『死刑でいいです―孤立が生んだ二つの殺人』

発達障害、アスペルガー症候群などは、心神耗弱や心神喪失の理由になるのだろうか。ケースバイケース、と言ってしまえば一番楽だが、それだと何も言っていないのと同じだ。ここで、疾患は違うがもう少しだけ具体的に考えてみることにする。

例えば妄想性障害の男性が「妻が浮気している」という嫉妬妄想を抱き、不貞をはたらく妻を許せずに殺害したとする。この場合、男性が妻を殺そうと思った根本原因は妄想であるから、心神耗弱・喪失を認めるべきだという人もいるだろうが、それはおかしい。もし仮に「妻が浮気している」というのが妄想ではなく事実だとして、「だから殺してやる」という結論を出すことは心情的に許しがたい。

これに対して、統合失調症の男性が「命を狙われている」という被害妄想をもち、「いつの間にか家族もグルになって食事に毒を盛っている」と考えるようになり、その挙げ句に「殺される前に殺さなければいけない」という結論に至ったとする。これも動機の根本は妄想であるが、上記した嫉妬妄想と違うのは、もし「命を狙われている」というのが事実だと仮定した場合には、自分を狙っている相手に対して先手を打つということが、さすがに正当化はされないにしても、心情的には理解できるというところだ。

「妻が浮気した → 殺してやる」という思考の流れより、「狙われている → 家族もグルだ → 警察も信用できない → 八方塞がりだ、やられる前にやらなければ」という思考の流れのほうが理解できる。理解できないほうが責任能力ありで、理解できるほうに心神耗弱・喪失を認めるというのは一見変に感じられるかもしれないし、やっぱり俺も上手く説明できない(ちなみに精神科医は鑑定において心身耗弱や喪失を判定しない。それを決めるのは裁判官である)。あくまでも、俺が精神鑑定する時の思考の流れの一部である(そういえば、数年そういう機会がない。平穏なのは良いことだ)。

発達障害やアスペルガー症候群、人格障害ではどうだろうか。そういうケースでの鑑定経験がないので詳しくは分からないが、自分なら責任能力ありとすることが多いのではないだろうか。


大阪で若い姉妹が刺殺された。犯人はその数年前、17歳の時に自分の母親をバットで撲殺して3年間を少年院で過ごしていた。少年院では広汎性発達障害と診断を受け、裁判での精神鑑定では人格障害と診断されたこの若い男が、どういうふうに育ち、どうやって母や女性2人を殺害するに至ったのか。そしてこういう加害者、加害者予備軍を、この社会はどう扱っていけば良いのか。あれこれ考えさせられる本だった。

姉妹殺人に関しては同情の余地なしなのだが、母親殺害に関しては、筆者らが取材した幼少期から思春期までの生育環境を読む限りでは、決して許されることではないにしても同情はしてしまう。というのも、この殺害された母親がかなりだらしない生活をしており、加害者は育児放棄に近い扱いを受け続けていたからだ。本書を読むと、殺人や責任能力とは別の社会問題についても考えさせられる。

最後に、
「発達障害やアスペルガー症候群だから犯罪に手を染めやすいということは断じてない」
本書で何度となく繰り返されていることだが、俺もまったくその通りだと思う。

<関連>
グロテスクな一冊 『自閉症裁判 レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』

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