2017年7月21日

学生、研修医、看護師からベテラン精神科医まで、幅広い層で得ることが見つかるはず! 『統合失調症のみかた、治療のすすめかた』


ツイッターでの情報発信も精力的にされている松﨑先生による「統合失調症の赤本」である。統合失調症の「みかた」と「治療のすすめかた」の二部構成となっており、まさにタイトルのとおりだ。

病気や治療の説明に際して「こういう声かけをしてみては?」「こんな言葉選びはどうかしら?」と具体的に記載されていて非常に実践的である。いずれも患者にとって「侵襲性のない」ものであり、また医師と患者が「普遍的に共有できる感覚」を巧みに言語化してある。しかも、どれをとっても「優」しくて「易」しい。

こういう具体的かつ普遍的な「やさしい言葉」を、日本の精神科医・患者にもたらした第一人者は中井久夫先生だろう。ここで松﨑先生と中井先生を引き比べると、全国の中井久夫ファンや松﨑先生ご自身から叱責を受けそうだが、敢えて一点だけ強調して述べておきたい。

中井先生が示された言葉は普遍的で、現在の精神科医療でもまったく色あせない。とはいえ、精神科の治療は少しずつ進化しており、中井先生がほとんど言及されていない治療法、治療薬もある。「持効性注射剤」がその代表で、これは2週間あるいは1ヶ月に1回の注射で済む治療法だ。これを患者に勧めるにあたって、「薬は1年に365回、注射は1年に12回」「薬を続けることは月1回の注射に任せ、あなたには人生そのものを頑張ってもらいたい」といった、松﨑先生の言葉が参考になる。これらは、中井先生の「薬の飲み心地はどう?」「頭の中が忙しくない?」といった言葉と同じく「次世代に語り継がれていく言い回し」になるのではなかろうか。

褒めてばかりだと良いレビューとは言えないだろうから、最後に敢えて難点を3つ挙げておく。

1.値段が高い。学生でも得るところの多い本であり、また学生や研修医のうちにこそ読んで欲しい内容が含まれているだけに、税込4104円は少々ハードルが高い。俺のこれまでの読書歴で、価値ある内容をふんだんに含んでいるのに、おそらく値段のせいで売れずに埋もれてしまった絶版本を何冊も見てきた。本書がそうならないことを祈る。

2.誤字・脱字チェックが甘い。これは編集者・出版社サイドの責任だ。松﨑先生と個人的にやり取りして、本書完成までの苦労話の一端を教えていただいた。具体的な内容は書かないが、版を重ねることがあるなら、誤字・脱字を徹底的に見直して欲しい。

3.付録DVDがない。松﨑先生は英国・米国の世界大会で優勝した経歴を持つマジシャンでもある。筑波大学の授業では手品を披露されることもあるようだが、その妙技を付録DVDで全国の読者にも届けるべきであろう(笑)

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