2017年7月5日

薬を減らすのがスローペースな理由

長年処方されていて、しかも患者が律儀に飲んでいる薬に関しては、引き継いだ時にどんなに無意味に思えても、絶対に突然中止してはいけない。

患者の体は、その薬を「常に在るもの」として動いているので、突然の中止は体にとっての「急性欠乏」として思わぬ症状を引き起こす。

たとえば、「過感受性精神病」というのがある。長期に精神病を治す薬を飲んでいる人が、急に薬を減量・中止すると、精神病が再発・増悪するというものだ。

せっかく善意から多剤大量を改善しようとしているのに、その方針が過激すぎると、結局は精神病症状の悪化を招いて、
「前医の処方は正しかった」
となりかねない。

減量は良いこと、だが慎重に。

いま、多剤大量になっている入院患者の薬の減量を試みている。これが亀のペースなのは、こういう理由からである。

それから治療薬は、前医との(良くも悪くも)「絆」となっている可能性にも思いを馳せなくてはならない。少なくとも精神科医なら、その配慮を忘れてはならない。

その人の治療歴は、その人の人生の一部である。これを尊重していれば、
「いらない薬だからやめます」
そんな軽い態度で処方内容をコロリと変えるなんてことはしないはずだ。

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