2018年2月6日

子どもの支援者(つまり親も含めて)必読の本 『子どもの心の処方箋 精神科児童思春期外来の現場から』

1000人のうち、

1.11歳の時点で精神病様の症状体験をしたものは141人。
2.精神病様の症状を強く体験していた子ども16人のうち、4人が26歳時点で統合失調症様障害を発症。
3.精神病様の症状体験が軽度だった125人の子どもの統合失調症様障害の発症率は通常の5倍。

これは2000年にニュージーランドで報告された研究結果である。構造化面接を用いたコホート研究で、信頼性が高く、日本を含む世界各国で同様の追試がなされ、やはり同様の結果が得られた。

日本での調査は、精神病様の症状体験の有無を以下の4つの質問から判断された。

1.超能力や読心術で心の中を読み取られたことがないか。
2.テレビやラジオからメッセージや暗号が送られてきたことはないか。
3.追跡される、話を聞かれていると感じたことはないか。
4.他人には聞こえない「声」を聞いたことはないか。

約5000人の中学生を対象に調べた結果、15%が「体験したことがある」と回答した。


のっけから驚くような話で始まる本書は、専門的になりすぎることなく、専門家が読んでも一般の人が読んでも理解しやすく、そして役に立つように書かれていた。これまでにも「メンタルヘルス講習会」といった名目で校長先生の集まりや海上保安部職員、裁判調停員らを相手に講演をしたことがあるが、今後は本書の内容をかなり参考にすると思う。

著者によると、保険診療下でもすべての患者に長時間のカウンセリングを施し続けられる精神科医がいるとしたら、その理由は以下の3つ。

1.あまりに人口の少ない地域で診療を続けている。
2.評判が悪すぎて、長時間の診察を行なっているにもかかわらず、患者がいつまでも増えない。
3.社会的なニーズに応えようという使命感が欠落していて、患者を選んで趣味的な治療に没頭している。

この言いっぷりが読んでいて心地いい。1時間に10人、時にはそれ以上の予約患者が殺到する外来では、長時間のカウンセリングを求められても応じられない。

さて、本書から参考になる話を抜粋。

まず子どもの非行について、向かい合う際の原則は、「表沙汰にして多くの人の助けを借りる」こと。
家族が腹をくくり、触法行為に対しては、きちんと警察を呼ぶという姿勢を見せたとき、子どもは家族の覚悟に気付く。そして子ども自身が自分の問題に向かい合うきっかけを得る。
これは『社会的ひきこもり―終わらない思春期』でも同様のことが述べられていた。

次は自傷行為について。
自傷は彼女らをある時期に支え、落ち着きをもたらしていたのも事実だ。暗い海で溺れそうな彼女らを救い出した、波間に漂う一枚の板切れなのだ。彼女らはその板切れがなければとっくに溺れ死んでいたかもしれない。そういう意味ではその板切れは、彼女たちにとっては生きるために必要な宝物とまで言えるのかもしれない。
リストカットやODに対する友人や家族、治療者のあり方で、俺も自傷行為についての例え話に荒海を用いている。これは先輩医師との雑談から身につけたものだが、もしかしたら先輩もこういう本から情報収集されていたのかもしれない。

自傷行為は、ある研究によると、15年後には3分の2以上が社会適応しており、また27年後では92%の人がすっかり良くなっているそうだ。12歳から15歳くらいで始める人が多いので、「30歳で激減し、40歳以上ではほとんどしなくなる」という臨床実感とも大体一致する。ただし、これはあくまでも、それまでに「自殺しなかったら」という条件付きである。医師も家族も、そこまで生き延びさせることが大目標になる。

この他、「子どもに関わる大人たちへ」というテーマで10のヒントが提示されていたり、診察室で子どもたちにかける10のアドバイスというものが示されたりしている。

いささか長くなってしまったのでこれ以上は書かないが、非常にためになる本だったので、ぜひ一読してみて欲しい。

2 件のコメント:

  1. ブログで紹介された本、読んでて面白い、興味深いと感じることが多いのでこの記事にある本も読んでみようと思います!自分がその海の中にいるのにこういう本を読んで意味があるのかは分かりませんが…それでも本を読むのは楽しいです。参考になります。このブログを読むことも楽しいです。

    関連記事にある「死ぬなよ」のところで思わず泣いてしまいました。自傷始めたころ~死ぬなという言葉が素直に受け取れるまで随分時間がかかりましたが、そういう受け取り方できれば30歳まで自殺せずにいられそうです。
    死ぬなよ、がストンと自分の中に落とすことができずにいるのは辛いものですね…。

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    1. >匿名2014年4月14日 12:06さん
      この本は実に良かったです。一般の方であれば、図書館に置いてあればそれを借りると良いかもしれません。精神科医、特に若手は手元に一冊置いといて、時どきで良いからチラッと読み直すくらいでだいぶ違いそうです。
      このブログを読むことが楽しいと思ってもらえてうれしいです。今後も楽しい記事を書き続けられると良いのですが^_^;
      コメントを読んで、あなたくらい言葉での表現力があれば、自傷以外での方法がきっと見つかるのではないかと、これは勝手に俺がそう思っているだけですが、そんな気がします。

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