2018年2月7日

自傷行為をする若者にとって、もっとも自分を大事にしない行動は、リスカでもODでも過食嘔吐でも、無防備なセックスでもなく、「悩みを誰にも相談しないこと、助けを求めないこと」である。 『中高生のためのメンタル系サバイバルガイド』

自傷行為をする若者にとって、もっとも自分を大事にしない行動は、リスカでもODでも過食嘔吐でも、無防備なセックスでもなく、「悩みを誰にも相談しないこと、助けを求めないこと」である。
中高生のうち、自傷行為をする生徒の割合がどれくらいかご存じだろうか。ある調査によると、約0.35%前後である。1000人中3人か4人くらいということだが、実はこれ、「教師が把握している自傷する生徒の割合」である。

では匿名アンケートではどうかというと、なんと10人に1人くらいはリストカットのような自傷行為をやっているようだ。またそのうち半分は「10回以上したことがある」と答えている。

つまり、学校の先生は生徒の自傷にほとんど気づいていないということであるが、これは恐らく教師だけでなく親も友人も似たようなもので、自分の子どもや友だちが自傷行為をしているなんて知らなかったという人も多いだろう。

上記はいずれも本書で述べられていたことである。「中高生のための」と書いてあるように、専門書ではないので一般の人でも読みやすいだろう。逆に専門家にとっては物足りない部分が多いかもしれない。内容はリスカやOD以外にもデートDVや援助交際(ウリ)、その他いわゆる「メンタル系」に入りそうなものをあれこれ網羅しているので、興味のある人はご一読を。

2018年2月6日

子どもの支援者(つまり親も含めて)必読の本 『子どもの心の処方箋 精神科児童思春期外来の現場から』

1000人のうち、

1.11歳の時点で精神病様の症状体験をしたものは141人。
2.精神病様の症状を強く体験していた子ども16人のうち、4人が26歳時点で統合失調症様障害を発症。
3.精神病様の症状体験が軽度だった125人の子どもの統合失調症様障害の発症率は通常の5倍。

これは2000年にニュージーランドで報告された研究結果である。構造化面接を用いたコホート研究で、信頼性が高く、日本を含む世界各国で同様の追試がなされ、やはり同様の結果が得られた。

日本での調査は、精神病様の症状体験の有無を以下の4つの質問から判断された。

1.超能力や読心術で心の中を読み取られたことがないか。
2.テレビやラジオからメッセージや暗号が送られてきたことはないか。
3.追跡される、話を聞かれていると感じたことはないか。
4.他人には聞こえない「声」を聞いたことはないか。

約5000人の中学生を対象に調べた結果、15%が「体験したことがある」と回答した。


のっけから驚くような話で始まる本書は、専門的になりすぎることなく、専門家が読んでも一般の人が読んでも理解しやすく、そして役に立つように書かれていた。これまでにも「メンタルヘルス講習会」といった名目で校長先生の集まりや海上保安部職員、裁判調停員らを相手に講演をしたことがあるが、今後は本書の内容をかなり参考にすると思う。

著者によると、保険診療下でもすべての患者に長時間のカウンセリングを施し続けられる精神科医がいるとしたら、その理由は以下の3つ。

1.あまりに人口の少ない地域で診療を続けている。
2.評判が悪すぎて、長時間の診察を行なっているにもかかわらず、患者がいつまでも増えない。
3.社会的なニーズに応えようという使命感が欠落していて、患者を選んで趣味的な治療に没頭している。

この言いっぷりが読んでいて心地いい。1時間に10人、時にはそれ以上の予約患者が殺到する外来では、長時間のカウンセリングを求められても応じられない。

さて、本書から参考になる話を抜粋。

まず子どもの非行について、向かい合う際の原則は、「表沙汰にして多くの人の助けを借りる」こと。
家族が腹をくくり、触法行為に対しては、きちんと警察を呼ぶという姿勢を見せたとき、子どもは家族の覚悟に気付く。そして子ども自身が自分の問題に向かい合うきっかけを得る。
これは『社会的ひきこもり―終わらない思春期』でも同様のことが述べられていた。

次は自傷行為について。
自傷は彼女らをある時期に支え、落ち着きをもたらしていたのも事実だ。暗い海で溺れそうな彼女らを救い出した、波間に漂う一枚の板切れなのだ。彼女らはその板切れがなければとっくに溺れ死んでいたかもしれない。そういう意味ではその板切れは、彼女たちにとっては生きるために必要な宝物とまで言えるのかもしれない。
リストカットやODに対する友人や家族、治療者のあり方で、俺も自傷行為についての例え話に荒海を用いている。これは先輩医師との雑談から身につけたものだが、もしかしたら先輩もこういう本から情報収集されていたのかもしれない。

自傷行為は、ある研究によると、15年後には3分の2以上が社会適応しており、また27年後では92%の人がすっかり良くなっているそうだ。12歳から15歳くらいで始める人が多いので、「30歳で激減し、40歳以上ではほとんどしなくなる」という臨床実感とも大体一致する。ただし、これはあくまでも、それまでに「自殺しなかったら」という条件付きである。医師も家族も、そこまで生き延びさせることが大目標になる。

この他、「子どもに関わる大人たちへ」というテーマで10のヒントが提示されていたり、診察室で子どもたちにかける10のアドバイスというものが示されたりしている。

いささか長くなってしまったのでこれ以上は書かないが、非常にためになる本だったので、ぜひ一読してみて欲しい。

2018年2月5日

1番の問題を取り除くと、2番目が昇進する 『コンサルタントの秘密』

「1番の問題を取り除くと、2番目が昇進する」

これは、精神科の診察室で何度となく経験する法則である。こうして次々と昇進してくる問題を、精神科医がモグラ叩きのように解決していくと、いずれ患者は精神科医を「モグラを叩いてくれる人」と思うようになるだろう。それは、患者にとって良いことなのだろうか?

個々人の問題はそれぞれ自分で解決しなければならない。そう考えて診療している。だから、精神科医としては、モグラを「叩く人」ではなく「叩き方を教えてくれる人」でありたい。もっと進んで、「何かしてくれるわけではないが、叩くときに側にいて、叩き損ねたら照れ笑いにつき合ってくれて、手首を痛めたときには労わってくれる人」あたりが理想像だ。

カウンセリングや精神療法といったものは、いわば患者の人生に関するコンサルタントみたいなものだ。企業のコンサルタントは、自ら解決法を提案することはしない。その企業で働く人以上にその企業のことを分かっている、そんなコンサルタントはほとんどいない。そして、これはもの凄く重要なことだが、コンサルタントが経営者以上に損失を受けることは絶対にない。精神科も同じだ。患者以上に患者に詳しい精神科医はいないし、患者以上に医師が損害をこうむることはない。


そういうわけで、日常診療の役に立つかもしれないと思ってコンサルタントの本を読んでみた。予想通り、非常に示唆に富む本で、若干の読みにくさはあるものの、それを補うに充分な内容だった。その中で印象的だった話を一つだけ。

盲人たちが集まって象を触り、それぞれが、
「木のようだ」
「蛇のようだ」
「縄のようだ」
「家のようだ」
「鎗のようだ」
「毛布のようだ」
「家のようだ」
と感想を述べた。

この逸話を会社に置き換えると、盲人とは各部署で働く人ということになる。彼らは会社全体のことを自分の部署だけで判断してしまう。彼らに象(会社)をより詳しく把握させるためにはどうしたら良いだろう。

盲人(従業員)になるべくたくさんの場所(部署)を触らせるのも一つの方法だし、象(会社)のミニチュア(概要など)を用意するのも良い。これらはいずれも優れたやりかたであるが、最良の方法には遠く及ばない。

では、最良の方法とは何か。

それは、実際に盲目を癒すこと。


まぁ、そうは言っても、そんな簡単な話ではないけれど、一つの考えかたとしてとても面白い。

さて、これを読んでどう活かすか。

2018年2月2日

ストレス回避の上手・下手について、ちょっとした例え話を思いついた

食事中、飲みものや熱いものの入った容器など、倒すと大変なものは自然と奥に置いているはずだ。こういう「安全策」を子どもは上手くできないので、しょっちゅうコップをひっくり返す。そして、いつの間にか安全策が身につき、無意識に行えるようになっている。

同じように、「日常生活のストレスを安全な場所まで遠ざけておく」ことは、人それぞれが自然と身につけているものだが、中にはこれが極端に下手で、ことあるごとに「引っくり返してしまう」人がいる。

コップを倒してしまった子どもに、
「こうやってテーブルの奥に置けば倒しにくいよ」
と教えれば、その時点ではそれなりに理解するだろう。ところが、教えてすぐに上手くやれるようになるかというと、そうはいかない。ストレス回避も同じで、「ほら、こうすれば良さそうですよ」とアドバイスをされて理解できても、簡単に身につくようなものではない。

こんな例え話がなんの役に立つのかというと……。

たとえば、ストレス回避が下手で「たびたびコップをひっくり返してしまう」ような人がいるとして、その人にとっての「倒れにくいコップ」とはどんなものだろう、あるいは、そもそもその人に飲みものや熱いものは必要なのか、といった発想が出てくる。こうやって頭を少しだけ柔らかくできるのが、例え話の効用だろう。

2018年2月1日

発達障害や自閉症スペクトラム障害といったものに興味はあるが、知識はほとんどないといった人たちが読むのにお勧め! 『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』


以前、ある先輩精神科医が、
「発達障害も診断基準の裾野を広げれば10人に1人はいるそうだ」
と仰っていた。なるほど、言われてみれば確かにそうかもしれない。本書にも同様のことが書いてあった。

本書は、「発達障害や自閉症スペクトラム障害といったものに興味はあるが、知識はほとんどない」という人が読むのには非常に向いている。分量も多くないし、読みやすい。精神科医としては、もう一歩踏み込んだ内容まで読みたかったが、参考文献も記してあるので、そちらを読めということだろう。