最初に、点滴について基本的なことを知っておいて欲しい。あの無色透明の液体の中に、何やらもの凄い特効薬が入っていると信じている人は非常に多い。ポカリでも飲んでいれば大丈夫な老人たちに、点滴の中には水しか入っていないと説明しても、ただただ点滴をして欲しいと言って譲らないし、彼らを連れてきた家族も、
「先生、点滴さえしたら元気になると思うんですよ」
と、医学的根拠のない医学的判断を突き付けてくる。
「そこらへんで売っているスポーツドリンクを飲んだほうが何倍も良いですよ」
そんなことを言おうものなら、
「あの先生の当直はハズレだ。何もしてくれない」
そんなことを言われてしまう(実話)。しつこいようだが、点滴の中に魔法の薬は入っていない。
では、点滴の一番の役割はなにか。それは、体外から血管の中に通じる細い道を作っておくということだ。このことを「ルート確保」という。このルートを通して、救命や治療に必要な薬剤が体内に点滴される。さっきまで太い血管が見えていた人でも、出血が続くなどして低血圧ショックになれば、血管が虚脱(しぼむ)してしまい、そうなってからではルート確保が非常に困難になる。そんな状態になる前にルートを確保するのが、医療の現場では常識である。そもそも、救急外来での最初の処置は、「ルート確保~!」ということがほとんどだ。
改めて、救命士の話に戻る。
1.点滴の中には、水と電解質と糖分しか入っていない(つまり、有害なものは入っていない)。
2.ルート確保は非常に重要である。
3.タイミングを逃すと、ルートは確保できなくなる。
この三点から、この救命士の行為は医学的にはさして責められるべき部分はない。敢えて非難されるべき部分を探すとしたら、「法律で制限されていることを逸脱して行った」ということだろうか。一部で見られるような「命のためなら法を犯しても良いはずだ」という考えは危険だ。命を救うために違法行為をせずに済むよう法律を改正せよ、という姿勢こそが正しい。
※一応書いておく。
この記事のタイトルは敢えて煽情的に書いたが、俺はこの救命救急士に同情する立場である。
愛知県常滑市は6日、同市消防本部の男性救急救命士(38)が、交通事故負傷者を搬送中に、救急救命士法に違反する点滴を行っていたと発表した。
同本部は当時の状況をさらに詳しく調査をしたうえでこの救急救命士を処分する方針。
同本部によると、救命士は先月7日、常滑市内で起きた交通事故現場に出動。負傷した男性(35)に、救急車内で血流確保のための輸液を静脈に点滴した。救命士は「大量出血で意識がもうろうとしていたため、搬送先の常滑市民病院の医師と連絡を取りながら輸液を行った」と説明したという。負傷した男性は病院で治療を受け、現在は快方に向かっている。
救急救命士法の施行規則では、心肺停止状態の患者に限って医師から具体的な指示を受けながら、点滴や気管にチューブを挿入して酸素を送ることができるが、男性は心肺停止状態ではなかった。
同本部の事情聴取に対し、救命士は「施行規則のことは知っていたが、生命の危険があると思ったので輸液を行った」と話しているという。救命士は2004年に資格を取得した。石川忠彦消防長は「救命のためだったが、違法行為は遺憾。病院とのやりとりを含めて、当時の状況を検証していく」と述べた。
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