2012年3月17日

精神科臨床のための宝石箱 『世に棲む患者 中井久夫コレクション1巻』


尊敬してやまない精神科医・中井久夫先生の本。文庫本でありながら1300円とやや高価。しかし、含蓄ある言葉は、医師や看護師をはじめとした医療者のみならず、患者家族が読んでも非常に参考になるものばかりだ。論文集で、それぞれの論文は各方面で発表されたものであり、その読みやすさが大きな特徴だろう。

ごく一部ではあるが、心に残った文章を引用したい。
「プライドの高い人」とは、一般に自己評価の低い人である。だから、他人からの評価によって傷つくのである。逆にいえば、他人からの評価によって揺らぐような低い自己評価所持者が「プライドの高い人」と周囲から認識される。
無給で働いてくれている人には病人は正当な苦痛を言うことができない。(中略)ヴォランティアなどの「昇華」が潜在的には病的現象である(中略)わずかな金額でも支払う方がよい。
サリヴァンは昇華と妄想とが近縁だと言っている。たとえば慈善事業に打ち込んでいると、他のことをしている人間は皆するべきことをしていない人間に見えて来て、自分の仕事に参加すべきだと考えるようになり、「わずらわしい大義の人」になるという例を挙げているが、これは確かに妄想症の一歩手前である。
「治療者」と名乗ると治療をしていないとあいすまないみたいな気になって、今日も前進しなかったと気落ちして一日が終わることになりがちだ。しかし、人間というものはそう前進するものではない。「健康人」は滅多に進歩しない。だいたい同じようなことをやって日を送り月を送っているのである。(中略)治療者の仕事とは、「患者の人生をできるだけ無理のないゆたかでふっくらしたような軌跡を描いてまっとうできるように援助する」というくらいのところではあるまいか。
「病気はこの程度でしかない」という限界づけがないと、患者は安心できない。医者は「虫垂炎であり、かつ虫垂炎でしかない」ということをいわなければプロではない。
非常に頭のいい、アンテナのするどい精神科医というのは患者さんの話を聞いて、その中から患者さんのすべてを見抜こうというふうにやりますが(中略)あの先生の前にいくと全部見抜かれているような感じがするというのは、これは患者に対して非常に威圧感があるんですね。黙って座ればぴたっと当るというような感じの精神科医というのはいないことはないんですけれども、結局長い目で見ますと、余りよろしくないんですね。
(二宮尊徳が)村を立て直すというときに本当に村が立て直ったというのは、二宮という人が村の立て直しにタッチしたというようなことは忘れてしまって自分たちの力で村を立て直したんだというふうに思うようになったときに初めて再建できたんだということを書いている(中略)まさに精神科医あるいは一般に医者というものと同じだなと(以下略)
治ったらいいことが待っている場合は治りがいい。(中略)治ったらいいことが待っているということでなければなかなか患者は安心して治りにくい。(治ったら怖いお姑さんが待っているというような場合など)
臨床に際して、折に触れて思い出しては参考にしていきたい言葉ばかりだ。引用できなかった部分にも、非常に心打たれる箇所が多い。この本は、非常にお勧めである。

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