2012年4月18日

「退職を促してください」という手紙

以前、ある患者が勤務する大企業の産業医から手紙が来た。患者は統合失調症だったが、主治医から「退職を促して欲しい」という内容の手紙だった。さすがにちょっとムッとした。それは精神科医の仕事ではない。企業か、必要と感じた産業医が行なうべきことだ。診療情報提供書(意見書)を作成して欲しいということも書いてあったので、

「統合失調症という疾患の性質上、今後再発再燃しないと断言はできない。ただし、現在のまま、定期的通院・服薬を続ければ、再発・再燃の可能性は低い。業務内容に制限が設けられるのは致し方ないが、充分に就労できると考える」

という主旨のことを書いた。主治医として、ぜひとも復職させたいわけではない。むしろ、職場でのストレスを考えたなら退職するほうが良いとさえ思う。それは、本人にも家族にも十二分に時間をかけて告げてある。それでもなお、本人も家族も復職を望むなら、医療的視点から、現時点で復職可能かどうかの判断をするだけだ。

統合失調症患者の社会復帰成功は、4人に1人くらいとのこと。症状が再発・再燃し、業務に支障が出るのは、たとえそれがわずかであっても企業は嫌がるだろう。まして、機械運転をしたり、危険物を扱ったりする場合には、患者自身や周囲の人間を危険に巻き込む恐れもある。そんな色々な理由から、「できれば退職して欲しい」という企業側感覚は理解できる。

しかし、患者に退職を勧める役目を精神科医に任せるのは間違っている。現在、症状は落ち着いていて、通院・服薬している限り大丈夫と思われる人に、「退職したほうが良い」と促すことなどできない。もちろん、アドバイスはする。本人・家族に対して、統合失調症の特徴や予後、今後必要な治療、生活上で気をつけなければいけないこと。そういったことを一通りきちんと伝える。希望的な側面も述べるが、甘いだけの展望は抱かせないよう気をつける。ストレスフルな職場であれば、よりストレスの少ない職業にかえるほうが良いかもしれないと提案する。また、患者が単身生活をしていて私生活の家事などが負担になっているのであれば、実家で家族と暮らす方が再発リスクが低く、長い目で見れば、そのほうが良い人生が送れるかもしれない、といったことも告げる。しかし、それらはあくまでもアドバイスであって、そういったことを納得したうえで、患者・家族が将来を選択するのだ。

患者に退職して欲しければ、企業側から本人に明言して欲しい。それで患者本人はショックを受けるかもしれないが、かといって、精神科医が説得して退職させて万事丸く収まるわけでもなかろう。

4 件のコメント:

  1. そんないい加減な会社に勤めているから?
    気の毒な方です。

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    1. >佐平次さん
      こういうの、結構多いんですよねぇ……。

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  2. 私が勤めていた会社の産業医は、暗に「辞めろ」と言ってきました。
    復職スケジュールもかなりハードで、私は復職に2回失敗し、3回目の休職時に依願退職しました。
    統失でなく、うつでしたが。

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    1. >kooさん
      イヤらしい方法をとられるのは腹立たしいですよね。
      それよりは率直な意見を言ってくれるほうが良いときもあります。
      もちろん、タイミング、言葉選びは大事ですけれど。

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返事が遅くてすいません。