前半は数学の専門用語が頻出して、少々難解に感じられることがある。数学の本ではないので、それらの用語が詳しく解説されることはほとんどなく、ナッシュがそういう「専門外にはチンプンカンプン」という高度な数学にのめりこんで研究していたことが強く印象に残る。ところが、発症してからは、ナッシュの日常生活を中心に描写され、前半とは一転して専門用語がほとんど出なくなり、圧倒的に読みやすくなる。ナッシュ自身の人生としては、超高度を飛んでいたジャンボ機が、緊急着陸して地面をノタノタと進んでいるような、そんなイメージである。
本書は、まるで本そのものが統合失調症のメタファーになっているかのようだ。これはおそらく作者が意図したものではなく、統合失調症を発症した人の一代記を丁寧に書けば、どれも統合失調症のメタファーのようになるのだろう。
本書は、数学の知識がなくても充分に興味深く読めるが、統合失調症の知識があるほうがより深い感動を受けると思う。また、躁うつ病や発達障害についても知っていれば、ナッシュの診断が正しいのかどうかも考えながら読める。さらに、統合失調症治療の歴史という点でも、インシュリン療法や発熱療法、電気ショック療法という話も出てくる。
ラッセル・クロウ主演の映画も素晴らしかったが、本はさらに濃密で面白かった。非常に良い、心に残る一冊だった。
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