2016年12月12日

脳も鍛えるアスリートたちから、多くの知恵を学べるオススメ本! 『頭脳のスタジアム 一球一球に意思が宿る』


野球の一流選手が鍛錬によって身につけた感覚を、素人に伝わるように言語化するのは難しい。かろうじて言語化したとしても、川上哲治が「ボールが止まって見えた」と語り、長嶋茂雄が「スーッと来たボールをバーンと打つ」と表現したように、天才同士にしか分からないものになってしまう。それでも、我々凡人は、天才の感覚をもっと分かりやすい言葉で伝えて欲しいと願う。

本書は「誰にでも普遍であるはずの森羅万象を、一般人には理解不能なところまでキャッチでき、しかもそれを誰にでも分かるように表現できる人」というテーマで、松坂大輔、和田毅、豊田清、五十嵐亮太、和田一浩、松中信彦、宮本慎也、城島健司の8人にインタビューしてまとめてある。いずれも読み応えのあるもので、精神科医としても非常に勉強になった。

ピッチャーの松坂大輔は、自分のフォームにこだわる選手、良かったときのフォームに戻そうともがいている投手がいることを取り上げて、こう指摘する。
そういう投手って、良い球を投げることだけに意識が行っているから、フォームを盛んに気にしているんですよ。でも、僕らの原点というのは、バッターに向かって投げることじゃないですか。その大事な部分を忘れちゃっているんです。
もちろんフォームも大事だけど、フォームを求めすぎてマウンドに上がっても、そればかり考えて、相手がいることを忘れちゃってる。自分がボールを投げる本来の意味を置き去りにしているんですよね。フォームなんて、結局何を言われようが、バッターを抑えれば文句は言われないんだから。要は、相手を抑えればいいんですよ。
ああ、これ、医療と同じだ。自分たちの仕事の原点は何か、それを忘れてはいけない。

城島健司は、若菜コーチから受けた「日常生活の中でキャッチャーとしての視線を養う」ための訓練を紹介している。
(若菜コーチと)2人で町を歩いていると、「この人は右に曲がるか、左に曲がるか。注意して見ると、どっちに曲がるかに癖が出るはずだ」とか「県外ナンバーでゆっくり走っている車は、どっかで曲がる道を探しているはず。どこの道で曲がるか」とか、普段の生活の中から早めに状況を察知し、予測するトレーニングをさせられました。そういう意識で周りを見渡せば、勉強になることはたくさんある、動きには必ず癖が出るものだって。
同じようなことを、ショートの宮本慎也も語っている。
人を観察するのも好きですね。テレビや新聞のニュースにだって野球のヒントになるようなことがいっぱいあるんですよ。
プロ野球選手という仕事のために、こういうところにまで気を配っているのかと感心すると同時に、自分もそうでなければいけないと身が引き締まる。

名バッターの和田一浩は、こう言う。
プロでいる限りは、身体だけではなく脳も鍛えないと、前には進めないと思っています。
職業アスリートである彼らがここまで脳を鍛えているのだから、仕事のほとんどで身体より脳を使う自分は、逆に身体をしっかり鍛えなければ、良い仕事はできないと感じた。精神科医にとって、患者が興奮するといった緊急事態で「当たり負け」しない身体をつくっておくことは、自分にとってもスタッフにとっても精神衛生的に良いものだ。

とてもためになる本だったので、多くの人に勧めたい。

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