2017年5月15日

障害者がプロレスラーに!? 軽いノリなのに深く考えさせられる名著 『無敵のハンディキャップ 障害者が「プロレスラー」になった日』


障害者プロレス発足の経緯から始まり、世間で一定の認知を得るまでの紆余曲折を描いたノンフィクション。著者は障害者プロレスの発起人である北島行徳

このプロレスの興行名がなかなか刺激的だ。「超障害者宣言」は可愛いもので、「ボランティア敗戦記念日」とか「弱者の祭典」とか、「素敵なハンディキャップ」なんてのもある。

障害者プロレスとはいうものの、障害者だけが戦うわけではない。なんと(本書の中心テーマからすれば「なんと」という表現は使うべきではないのかもしれないが)障害者が健常者とも戦うのである。それも本気で。興行を重ねるうちに、「試合前、障害者レスラーが健常者レスラーの技を3つ禁じることができる」というルールができはしたものの、それ以外は真剣なぶつかり合いだ。そんな障害者プロレスの試合描写は、エキサイティングかつユーモラスである。

プロレスの実況はボランティアメンバーがやる。たとえば、寝返りすら介助が必要な重度障害のある女性同士が戦うとき、まず入場時のレスラー紹介はこうだ。
「私、脱いでも凄いんです。新橋三枝子!」
「私、今日、動きます。千野恵子!」
試合が始まると、二人ともゴロリとマットに横たわる。介助者がいないと座ることさえできないのだ。
「この試合は寝技のみになるので、お客さんには少し見にくいかもしれませんね」
「寝技と言っても、ただ寝転がっているだけに見えるかもしれませんが」
「二人とも日常生活では、寝返りをうつのにも苦労していますからね」
「そんな体の状態でプロレスをするわけですから、お客さんも見るポイントをしっかり押さえて欲しいです」
「そうですね。私はズバリ、千野選手の水着がポイントとみました。何か、おニューみたいですからね」
こうした実況に、観客は笑っていいものか戸惑うことになる。それが彼らの狙いでもある。また、孤児で、知能指数が81の男性、リングネーム「菓子パンマン」の紹介もキレている。
「さぁ、出てきました話題の新人、菓子パンマン! IQが81で愛の手帳がもらえずに、障害者になれなかった健常者です! もう一つ付け加えるなら、親のいない孤児でもあります!」
実況者も、こういうキツい表現をすることに抵抗がないわけではなかったという。しかしそれでも、「観客を相手に言葉のプロレスをする」というところに胸を打たれる。

当然予想されることではあるが、こういう活動に眉をひそめる人も多く、レスラーの親族も決して賛成する人ばかりではない。時には面と向かって批判する人たちもいる。それでも彼らは活動を続けているし、本書を読めば、思わず応援したくなること請け合いである。

余談ではあるが、同著者の映画化される(平成29年秋公開)小説『バケツ』では、知的障害者とボランティアの二人が主人公だった。この『無敵のハンディキャップ』を読むと、『バケツ』に出てくる人物やエピソードが決して空想の産物ではなく、実在する人たちをモデルにして、出来事もかなり忠実に再現したものだということが分かる。

もの凄く良い本なので、手放さずに蔵書する。

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