2017年6月20日

「子どもを殺してください」 精神科医ならたいてい一度は言われたことがある…… 『「子供を殺してください」という親たち』


ショッキングなタイトルではある。しかし、実際にこれと似たようなことを言われたことのある精神科医は多いのではなかろうか。

「副作用で死んでも良いから、落ち着くよう大量の薬を出して欲しい」
「楽に死なせるような薬はないですか」
「いっそ死んでくれたら良いのに」

発言者は両親であったり、兄弟姉妹であったりする。本人の前で吐き捨てるように言うこともあれば、主治医と二人きりになった時にボソッと呟くこともある。いずれにしても、たいてい半分は冗談である。しかし、つまり、半分は本気だ。

本書は民間の「精神障害者移送サービス」を経営する押川剛によるノンフィクションだ。およそ半分を割いて7つのケースについて紹介・描写してある。いずれも精神科従事者にとっては珍しくない光景だが、一般の人からすればショッキングな部分もあるだろう。あるいは身近に同様の患者がいる家族なら、「分かる……」と頷いたり、場合によってはこの会社の連絡先を調べたりするかもしれない。

それぞれ極端な例であるため、「精神科患者は危険だというレッテル貼りにつながる」といった批判も浴びているようだ。しかし、「精神科の病気は真面目で良い人がなる」というのも、逆の意味での間違ったレッテルではなかろうか。「真面目な人がなる」というのは耳に心地良いが、実際には誰もがなりうるもので、不真面目な人も、人格に大問題のある人でも、精神科の病気になる可能性はある。だから、本書で紹介されるケースは極端ではあっても、現実の一部であると認めなければならない。

本書の後半では、著者が精神保健福祉に対する思いを語っている。賛否両論とまではいかなくとも、読む人の立場によって賛同したり納得できなかったりする部分があるだろう。

批判も受けている本だが、精神保健医療・行政に少しでも関心を持ってもらえるなら、それなりの存在意義はあるはずだ。また、こういう人たちが家族を支えないといけない状況には、精神保健医療・行政に少なからぬ責任があるはずだ。互いに批難しあっていても進歩はない。患者も家族も救われない。うまく利用しあえる日が来ると良いのだが……。


※本を読むのが苦手という人にはマンガもあるので、試しにどうぞ。こちらもやはり批判は多いけれど。
「子供を殺してください」という親たち

2 件のコメント:

  1. 少しポイントはずれるかもしれませんが、うちの地域でこんなことがありました。

    教護院に入っていた息子が出所することになったのだけれど、母親はおらず父親は糖尿病で自分の方が介護が必要な状態、「息子を引き取ることは出来ない」と断りました。
    それでも市の職員が執拗に勧めるので父親はしぶしぶ息子を引き取るものの、すぐに息子はいなくなり、通りすがりの20歳の女性を殺害。
    息子は精神の問題があったとして(誰も)裁かれず、殺された女性と家族が気の毒という事件でした。

    また私の友人、精神病を抱える息子を持つ母親は、行政とも色々あり状態が悪い方に進み、ついに息子からの母親殺害予告にまで発展し、逮捕されてしまいました。(もともと仲が良かったのに、怒りを母親に向けるようになっていった)
    息子は母親がいなければ穏やかです。
    ところが教護院から出所した18歳以下の子供を迎え入れない親は逮捕されるとのことで、彼女は恐怖の日々を送ることに。(父親は交通事故で植物人間状態)
    幸い行政の施設の改修新築と重なり、息子の出所は18歳後になりました。
    今はガールフレンドの家族と平和に暮らしています。(彼女も障害者ですが、彼の気持ちをゆっくりと聞いてくれます)
    いずれ二人は結婚するそうです。
    母親は息子と会うことはしませんが、ガールフレンドと仲が良いので息子の様子は聞けます。
    という結果になりましたが、赤ちゃんのころから知っている息子と母親の壮絶な生活を見てきた私としては、行政の限界やら何やら、難しいなと思いました。

    友人はいつ殺されてもおかしくない状態だったし、周りの理解もなかったのに、いつも明るく振舞っていました。
    私は、今でも無事で笑っている彼女を見れるのは嬉しいです。

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    1. >Naokoさん
      壮絶ですね……。
      精神疾患の関与・非関与とは別に、その人のキャラクターというのはあると思います。
      正直、「どうしようもないな、この人は……」という人がいることも確かで、精神科医だから、対人援助職だから、という理由だけで、そういう人たちを援助するというのには限界があると感じます。

      ご友人の現在が、それなりに良いかたちにおさまっていらっしゃるようで良かったです。

      それにしても、凄絶なお話でした……。

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