2015年3月24日

あなたのアイデアを、相手の記憶に残すには 『アイデアのちから』

ジャーナリズムの教師が生徒らに課題を言い渡した。それは新聞記事のリード(その記事の最も重要な要素が盛り込まれた冒頭文)を書くことだった。
教師は事実をまくし立てた。
「ビバリーヒルズ高校のケネス・L・ピータース校長は今日、次のように発表した。来週木曜、同校の教員全員がサクラメントに行き、新しい教授法の研修を受ける。研修会では、人類学者のマーガレット・ミード、大学の学長であるロバート・メイナード・ハッチンス博士、カリフォルニア州知事のエドマンド・パット・ブラウンらが講演を行う」
さぁ、皆さんがこれを学生新聞の記事にするとして、リードをどう書くだろうか? 大半の生徒のリードは、事実を並べ替えてまとめたものだった。生徒らの解答に目を通した教師は、しばし沈黙してこう言った。

「この記事のリードは、『来週の木曜は休校となる』だ」


上記は本書の中で紹介されていたエピソードの一つで、『恋人たちの予感』『めぐり逢えたら』『ユー・ガット・メール』などを書いたノラ・エフロンという脚本家が高校時代に受けた実際の授業である。


本書によると、記憶に残るアイデアには6つの特徴(頭文字を並べてSUCCES)があるという。

1.単純明快(Simple)
2.意外性がある(Unexpected)
3.具体的(Concrete)
4.信頼性がある(Credentialed)
5.感情に訴える(Emotional)
6.物語性がある(Story)

冒頭の逸話は意外性を説明する章で紹介してある。

その他にも、本書では上記6項目に関して、非常にシンプルに、そして具体的に説明してあり、また時にあっと驚くような意外性をもった物語が提示される。

例えばシンプルさについて、本書では飛行士でもあった作家サン・テグジュペリ(『星の王子さま』で有名)のこんな言葉を紹介している。
「設計士が完璧さを達成したと確信するのは、それ以上付け加えるものがなくなったときではなく、それ以上取り去るものがなくなったときだ」
あなたがもし、こういう面白くてためになる話が読みたいなら、ぜひ本書を手に取るべきだ。子どもへの躾をもっと効果的にしたい、夫(妻)にもう少しちゃんと話を聞いて欲しい、上司(部下)にきちんと考えを伝えたいなど、分野を問わず、あなたの役に立つこと請け合いである。

2015年3月23日

人間はどこまで耐えられるのか


ちょっとコミカルな雰囲気の絵とタイトルのわりに、妙にしっかりした中身だなと思ったら、それもそのはず、著者はオックスフォード大学の生理学部教授であった。生理学をきちんと学んでいる医師であれば、ところどころの細かい説明は読み飛ばしながらすらすらと面白く読める。生理学を学んでいない人(生理学で手抜きした医師も含む)でも、分かりやすい文章で書いてあるので理解に苦しむことはないだろう。

生理学を学ぶ前の医学生の必読書にしても良さそうな一冊。

2015年3月20日

乱読のセレンディピティ


ロングセラー『思考の整理学』で有名な著者だが、本書はちょっとあんまりだった。外山滋比古は認知症になったんじゃなかろうか……、と感じてしまったほどだ。書いたのが恐らく90歳前後、多少の物忘れはあっても仕方がない。というか、それが自然だ。

読みながら、
「この本は連載エッセイあるいは何回か行なった講演会を一冊にまとめたものか?」
と思うくらい、たいした分量もない本書の中でいくつか同じようなエピソードが繰り返し取り上げられるのだ(あとがきには、すべて新稿であると明記してある)。また前後の主張のつながりが弛緩してしまっているところも散見され、とても理路整然とまとまったエッセイとは言い難い。

しかし、である。

Amazonレビューの評価は異常に高い。読者は見て見ぬふりか、気づかないのか。いや、それ以前に、編集者は変だと思わなかったのか。それとも大御所には意見できなかったか。

ただし、内容は決して陳腐ではなく、学ぶべき点も多々ある。そして、著者が主張するような心構えで読むならば、本書の評価は★3つである。

2015年3月18日

あなたが伝えたいこと、本当に伝わっている!? 『アイデアのちから』

あなたが伝えたいことは、本当に相手に伝わっているだろうか?

「叩き手」と「聴き手」という実験ゲームがある。叩き手は、「ハッピー・バースデー」や「メリーさんの羊」など誰でも知っているような25曲のリストの中から1曲を選び、声を出さずにリズムだけ、指で机を叩く。聴き手は、そのリズムを聞いて音楽を当てる。

聴き手が答える前に、叩き手に正答率を予測させたところ、予想正答率は50%だった。実際にはどうだったのかというと、120曲のうち正解はたった3曲、2.5%だけであった。

叩き手には曲名(知識)が与えられており、リズムを叩く時には頭の中でその音楽が流れている。しかし聴き手にしてみれば、モールス信号のようなコツコツという脈絡のない音を聞かされているだけで、そこから正確な曲名を推測するのは至極困難である。叩き手がそのことに気づかないと、自分の伝えたいことはちゃんと伝わっていると誤解したままになってしまう。

「叩き手」を「話し手」に置き換えても、同じようなことが言える。


本書では、上記のように、自分の知識を他人と共有することの難しさを「知の呪縛」と呼んでいる。「知っている者」から「知らない者」へ知識を伝えるのは並大抵のことではないのだ。そしてこれは、医療全般において使える考え方のヒントでもある。

本書はこうしたヒント満載の本であった。

ちなみに上記実験は1990年にスタンフォード大学で行なわれたものである。

2015年3月17日

戦艦武蔵


第二次大戦で撃沈した戦艦武蔵が、シブヤン海の底で発見されたことで話題になっている。この波に乗って、買っておいた本を読んでみるかと取り出した。

結論としては、俺はこのての話が好きではなかった。人名と地名が多く、また日付けも多数出てきて、歴史が大の苦手な俺の心には入ってこないのだ。それでも最後の撃沈時の描写は圧巻。吉村昭の描く凄惨な場面描写は、淡々と簡素でありながら「見てきたような」変な迫力をもっているので、読んでいて思わずため息が漏れそうになる。

戦史・戦記に詳しい人、戦艦ものが好きな人にはお勧めできる本。